共感格差

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国内問題である社会による共感の格差は、安全保障上の問題になりうる。

私は、2022年9月に共感格差というタイトルのブログ記事を書いた。その内容を要約する。

目次

共感格差とは

共感格差というブログ記事の内容を箇条書きにすると以下のようになる。

  • (社会的)共感は政治的・社会的リソースである。
    • 物理的資産がリソースであるのと同様だ。
  • 共感はアイデンティティごとに分配される(女性黒人LGBT,労働者階級,白人子供etc)。
  • 共感は物理的資産と同じく分配に差がある。
  • 共感の分配は主にマスメディアによってなされる。
  • トランプ大統領が当選する以前、労働者階級に関するメディアのツイートは60件、同性愛 LGBTに関するツイートは、9664件であった。
    • ツイートの比率は、労働者階級 60 対 LGBT 9664 で 161倍だ。
    • ツイートの差を共感の差だとみなせば、労働者階級とLGBTで大きな格差がある。
  • 共感の格差を放置すれば、そこはポピュリストにつけこまれる。
  • もしあなたがポピュリストになりたければ、次のターゲットを狙うと良い。
    • ある程度人口ボリュームがある
    • 実際に困難の中にいる。
    • マスメディアは彼らの困難や存在を無視する(他のマイノリティグループの困難は盛んに取り上げているのに)。
  • これらの人をターゲットにすれば、少ない労力で多くの支持を得られる。

もう少し長く要約すると以下のようになる。

共感は、政治的社会的リソースである。共感を与えられないものにはなかなか寄付も、政治的な支援も得られない。例えば、絶滅しそうな動物種(レッドリスト)でも共感を得られる哺乳類と共感を得られない虫や爬虫類の間で寄付額に差がある。 人間でも共感の分配に差がある。紛争地域でも少女からのtweetには関心や共感が集まる。

トランプが大統領になれたのは白人労働者を味方につけたからだとよく言われる。 アメリカの主要メディアのtweetを調べた所、労働者階級やブルーカラーに関するtweetが他のマイノリティグループに比べて極端に少なかった。白人に関しては白人に寄り添うよりは、白人特権を糾弾するツイートのほうが多かった。つまり、メディア(社会)は白人労働者に共感を寄せなかった。

トランプは、その共感を寄せられないと感じている人々の絶望を利用することで大統領になったのではないか? ポピュリストの振る舞いを見ると、多くの政治家に票田とみなされていない「忘れられた人々」をターゲットにしているように見える。忘れられた人々を放置すればポピュリストの伸張を許すことになるだろう。

というものだ。

共感はメディアによって不平等に分配される。

社会の共感がどの属性に向けられているか?直接調査することは難しい。しかし、マスメディアがどの属性の人たちの問題を、「問題として取り上げ報じる」かは調査することができる。私は、アメリカの大手マスメディアのツイートを調査してどの属性の問題を取り上げているかを調査した。

私は、アメリカの大手マスメディアのSNSアカウント(日頃は自社のニュースをツイートしている)が2010年から2015年の間に、どの属性に言及したツイートが何件あるかをカウントした。

対象の大手メディアは、ワシントン・ポスト、ニューヨークタイムス、フォックス・ニュース、ハフポスト、WSJ、USA Today、ABC news、CBS news、NBC news、CNNの10媒体だ。それぞれのフォロワー数は、最大5000万フォロワー。最小でも400万フォロワーを超える。10メディアの平均のフォロワー数は2106万だ。

上記の10メディアがツイートした属性の数を調査した結果、以下のようになった。

属性言及ツイート数労働者の何倍
労働者階級・ブルーカラー601倍
白人771.28倍
同性愛・LGBT9664161倍
黒人343657倍
移民179229倍

最小の労働者階級・ブルーカラーの60ツイートに対して、同性愛・LGBTへの言及ツイートは9664件であった。161倍の開きがあった。トランプが2016年に選挙に勝利したのは、ラストベルトの労働者の支持が影響したと言われている。2010年-2015年の上記10メディアが、ラストベルトに言及した数は12件であった。

同性愛・LGBTへの言及ツイートが9664件、黒人への言及が3436件であることと比較すると、マスコミはラストベルトの労働者に興味はなかった。ラストベルトの労働者も問題を抱え苦しんでいたのに。

上記で書いたように、共感は社会的・政治的リソースだ。社会問題を解決するためにまずそこに社会問題があることが人々に認知されなければならない。LGBT問題も黒人問題もそこに社会問題がある事自体は認知されている(改善も遅々としてであるが進んでいる)。一方、労働者・ブルーカラーの問題は、マスコミによって認知されてなかった。

ポピュリストは忘れられた人々を票田に変える

その様に無視された人たちは、困難の中に居た。しかし、マスメディアや主要な政党は彼らに興味はなかった。マスコミは上記のように、LGBTには9664回言及する一方、労働者階級・ブルーカラーには60回しか言及していない。イギリスの例であるがブレイディみかこ「労働者階級の反乱」でも、大政党に見捨てられてきた地区には、UKIPやBNP(共に右翼政党)しか活動していなかったとの記述がある(p55)。

また、2016年、トランプが選挙戦を闘っていたとき、トランプ陣営の最大支出項目が野球帽だとニュースのコメンテーターがバカにしたことがあった。そのことについてマイケル・ムーアは以下のように述べた。

俺は35歳以上の怒った白人男性で、高卒だ。つまり、典型的な「トランプ支持の人口動態」に属する。そこで育ち、そこに暮らし、今もそこで生きている。大統領選の数週間前のこの番組で、トランプ陣営の最大の支出項目が野球帽だということを取り上げていた。そこでコメンテーターたちは「野球帽?ハッ(笑)」と馬鹿にしたんだ。俺は思った。「ああ、こいつらは(浮世から隔絶された)バブルの中で生きているんだ。(労働者階級にとっての野球帽の意味を)理解できないんだ」と思った。自分もいつも野球帽をかぶってきたし今もかぶってる。このとおり。これが俺たちの生き方だ。それを彼らは嘲笑したんだ。
トランプ批判のマイケル・ムーアはリベラルか?

トランプはよく野球帽を被って我々の前に現れる。これは彼が、そうすれば(マスコミなどから)忘れられた人々の関心が買えると思ってのことではないだろうか?そして、事実、2015年には泡沫候補に過ぎなかったトランプは第45代のアメリカ大統領となった。

上記が、共感格差についての要約だ。

最初に書いたように共感は有限のリソースだ。共感や同情は政治的・社会的リソース分配に影響する。共感や同情の分配は不平等だ。その不平等さは分配から漏れた人々の心を傷つける。リソースがなく誰にも分配されないよりも、彼らだけにはリソースが分配されないという方がよりひとの心を傷つける。

ポピュリストと同様に敵対勢力は、「忘れられた人々」を政治的リソースにするだろう

上記でポピュリストが、社会から共感や同情を与えられない人々を票田(政治的リソース)として扱うという話をした。そして、この忘れられた人々を政治的なリソースとして扱うのは必ずしもポピュリストに限らないのではないか?国外の敵対的勢力も彼らを利用できる。つまり、テロなどの社会不安定化要員として利用できるのではないか?

敵対的な勢力にとって有利な点はいくつかある。例えば、ソーシャルメディアの発達により、低コストで彼らのような忘れられた人々にダイレクトにアプローチできるようになったこと。そしてもう一つは、動員のためにかける労力が少なくて済むことだ。もしある人たちをテロリストに育てようと思ったら社会に対する不信感から育てなければならない(今の社会に満足しているならテロを行う必要はない)。しかし忘れられた人々は社会から顧みられず、すでに不信感を持っている。彼らがペインを感じており、そして社会が彼らを顧みないのは事実だからだ。敵対勢力のエージェントは彼らに承認を与えるだけで良い。言うならばすでにガソリンは充満しており、そこにマッチを擦って火を投げ入れれば良いようなものだ。

私達が、国内にいる社会から共感も同情も与えられてない人たちを包摂しないなら、彼らは国外の敵対的な勢力によって社会的不安定要員の候補者にされるだろう。

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この記事を書いた人

主にSNSの分析を個人の趣味として行っている。X(旧twitter)などを中心に分析しているがその他マスメディアが何に言及したかなどの調査をしている。
興味があるのは、マスメディアによるアジェンダ設定とその影になる誰かの問題は社会問題にならないのか?という設問である。
計算機自体が好きで、特に発表するあてもないデータを集計しては喜んでいる。
X(旧ツイッターアカウント)は shioshio38 お気軽にフォローしてもらえると嬉しい。今回紹介した共感格差は、こちら https://shioshio3.hatenablog.com/entry/2022/09/03/191426
で全文が読める。

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