各党公約における「偽・誤情報」対策を比較する

10月27日に投開票が行われる第50回衆議院議員選挙で、各党が公約・マニフェストを発表している。その中で、フェイクニュースや偽・誤情報やその対策についてどのように触れられているのだろうか。総務省などで行われる規制議論に影響する可能性もある。公表している公約や政策集から確認して比較すると、自民党、日本維新の会、共産党が触れており、公明党、立憲民主党、れいわ新選組では、ほとんど触れていないなど、姿勢の違いが明らかになった。
表 各党の公約・マニフェストにフェイクニュースなどの言葉があるか
フェイクニュース | 偽情報 | 誤情報 | |
自民党 | ◯ | ◯ | ◯ |
公明党 | |||
立憲民主党 | |||
日本維新の会 | ◯ | ◯ | ◯ |
日本共産党 | ◯ | ◯ | |
れいわ新選組 |
自民党
自民党は「令和6年政権公約」を確認した。多様性・共生社会の項目に下記2項目が記載されている。
- ネット上の偽・誤情報や誹謗中傷などに対応するため、情報流通プラットフォーム対処法の円滑な施行、利用者のリテラシー向上や相談体制の充実、偽・誤情報対策技術の研究開発など、表現の自由を最大限考慮しつつ、制度整備も含め総合的な対策を推進します。
- 表現の自由を最大限尊重しつつ、インターネット上の誹謗中傷や差別、フェイクニュース等への対策を推進するとともに、人権意識向上の啓発活動を強化し、様々な人権問題の解消を図ります。
注目すべきは、どちらにも「表現の自由を最大限考慮しつつ」という言葉があることだ。偽・誤情報については情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)という具体名を出しながら研究開発などの対策を進めることを提示し、フェイクニュースについては人権問題と関連して記載されている。制度整備や対策の推進という言葉が使われており、規制という言葉はない。

公明党
公明党は「重点政策」を確認した。フェイクニュースなどの記載はなく、同じ与党でも自民党とは異なる。ネット犯罪やSNSのトラブル対策に関する記載はある。
立憲民主党
立憲民主党は「政策集2024」を確認した。フェイクニュースなどの記載はないが、「デジタル・IT」の項目にFacebookやXで横行するネットのなりすまし広告に関する記述があり、規制という言葉が入る。
- インターネットのターゲット広告、投資詐欺等に誘導する著名人のなりすまし広告の規制など、個人情報保護や広告審査基準の明確化の促進を強化します。
- インターネットやSNS上の差別や誹謗中傷、人権侵害等への対策を強化します。
日本維新の会
日本維新の会は「マニフェスト」を確認した。最も関連する記載が多く、まず「憲法:総論」部分にフェイクニュースが記載されている。「表現・言論の自由に配慮し過度な規制は行わず」とあるが、フェイクニュースについてはリテラシー教育の推進をあげている。
- 憲法改正国民投票法案については、表現・言論の自由に配慮し過度な規制は行わず、国民投票広報協議会等を通じた正確な情報発信によって国民的議論を喚起します。また、ネット上のフェイクニュース等が社会問題化している現状に鑑み、情報リテラシー教育の推進を図ります。
偽・誤情報は、「成長戦略:情報通信・テクノロジー」の項目に、サイバー攻撃や覇権主義的な国家との関連で記載されているのが興味深い。こちらは法整備に向けた検討とある。生成AIにどう対処するかは、後述するように共産党にも記載がある。
- 偽・誤情報の拡散、サイバー攻撃、人権侵害や著作権侵害といった、生成 AI が及ぼす重大なリスクに対しては、世界共通の課題として国際的な枠組みの下で議論を主導し、国際連携を強化します。加えて、覇権主義的な国家による、生成 AI を使った情報戦やサイバー戦に対しては、我が国の民主主義や基本的人権を守るため、能動的サイバー防御も含めた情報戦対策と必要な法整備に向けた検討を行います。
- 急速に発展するデジタル社会で偽情報を信じたり、詐欺にあわないために、デジタル社会に対するリテラシーを学校教育に取り入れます。また生成 AI はあくまで様々な目的を達成するための手段であり、それを安全かつ効果的に活用するのは最終的には「人」であることから、AI 時代に適した責任ある人材の育成を産学官が一体となって進めるための国の研究開発費の確保に向けた取り組みを強化します。
なお、日本維新の会でも「消費者保護」の項目に、「なりすまし広告」による被害を防ぐための法規制強化について記載がある。
共産党
共産党は「総選挙政策」を確認した。共産党ではホームページでキーワード検索ができる仕組みがあり、個別の政策について確認しやすい。
AIの項目に「偽情報や誤情報を排除し、個人情報を守る仕組みを作ります」と見出しがあり、能登半島での、ウクライナの偽動画に触れながら、「情報の収集・生成・発信・流通の過程で偽情報を排除する仕組み作りが早急に求められています」との記載がある。AIの項目には表現の自由に関する記載はない。

規制は広告問題で明記
確認しておきたいのは、フェイクニュース、偽情報、誤情報、はそれぞれ異なる概念であることだ。フェイクニュースはニュースの形式を模したもので、偽情報は意図的につくられたもの、誤情報は誤解や間違いのように意図せずに広がるものだ。対策や規制議論に大きく関わる問題だが、各党の公約・マニフェストを見ると、違いを意識して使われているようには見えない。
それを踏まえた上でとなるが、調査した各党の公約・マニフェストで、フェイクニュース、偽情報、誤情報に関して明確に規制という言葉を使っているところはなく、明確に記載されているのは広告問題についてであった。また、偽・誤情報という言葉は使われているものの、誹謗中傷や人権侵害の対策については各党ともに関心を持っていることも分かる。表現や言論の自由や個人の権利についてどう記載しているかも有権者が注目すべきポイントとなるだろう。