イーロン・マスク vs 報道メディア:もう一つのアメリカ大統領選

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アメリカ大統領選、トランプが勝利した

 2024年アメリカ大統領選挙では、共和党候補のドナルド・トランプ氏(以下敬称略)が民主党候補のカマラ・ハリス氏を破り勝利した。獲得した選挙人の数はトランプ312人、ハリス氏は226人であった。事前に接戦であると言われていたが、思わぬ大差であった。

 この選挙結果は、従来のメディア構造が変化し、新しいメディア(ソーシャルメディアやポッドキャスト)が影響力を持ったことの現れではないか?と考えている。

イーロン・マスクはトランプ候補を支持した

 実業家イーロン・マスク氏(以下敬称略)がトランプ候補を支持した。イーロン・マスクは、電気自動車テスラ、宇宙開発スペースX、そしてソーシャルメディアX(旧Twitter)のオーナーである。そのイーロン・マスクはトランプを支持した。報道によるとトランプに対するマスクの献金額は、180億円であったそうだ。(マスク、トランプに半年で180億円献金 世界一の富豪の狙いは)。マスコミ報道では、イーロン・マスクの献金額ばかりが話題になるが、彼はもう一つトランプ当選に関して大きな貢献をした。
 それはXでの応援だ。

イーロン・マスクという巨大メディアの影響力

 イーロン・マスクは、Xアカウントを持っている。https://x.com/elonmusk
フォロワーは2億人いる。2024年7月から2024年10月まで彼のポストのview数を調査したところ、X内にある他の報道メディアの視聴数より多かった。図示すると以下のようになる。

 上記のview数だけでなく、ポスト数、retweet数、フォロワー数を追加した表を作った。集計期間は、2024/07/01-2024/10/31。データ集計はview数やretweet数が落ち着く翌月5日に前月分のデータを取得した。

メディアポスト数viewretweetフォロワー数
ABC10,825384,775,131232,2371784万
CBSNews7,892447,316,069544,807898万
CNN876246,469,030147,2456302万
FoxNews18,9501,716,678,4391,852,0982520万
HuffPost9,835231,931,691116,5361076万
NBCNews9,083250,441,544128,919943万
USATODAY10,936172,833,66965,951508万
WSJ9,843586,871,84298,0662068万
nytimes7,786953,156,816259,8975531万
washingtonpost8,100446,240,946141,8521999万
Elon Musk9,10685,200,155,90776,736,1612億
Trump3125,953,618,59310,915,2639441万

 view数でもretweet数でも、イーロン・マスクが他の報道メディアに対して圧倒した。メディアで最もフォロワー数が多いニューヨークタイムズ(5531万)であってもview数は9億5千万、retweet数は25万である。しかし、イーロン・マスクのview数は850億、retweet数は7千600万である。

 ニューヨークタイムズに比べてマスクはフォロー数は4倍の2億人であるが、視聴数では94倍の差が、retweet数では306倍の差がある。X上に限れば、イーロン・マスクのview数とretweet数はトランプより多かった。

イーロン・マスクの影響力が示す新しい現実

 「でもそれはX上のことだ」という批判はあり得る。しかし、Pew Research Centerの調査によれば、アメリカ人のニュース取得手段は急速にデジタルデバイスへと移行しており、デジタルデバイスを利用する割合は58%に達している。この割合は、テレビ(32%)より多くなっている。デジタルデバイスの中でも、ソーシャルメディアによる情報の取得も進んでおり、近年ではニュースサイトに迫る勢いになっている。

 X上のことだ、大勢に影響はないと言っても、Xのアメリカでの月間利用者数は1億人を超えており、この規模のプラットフォームで、850億回視聴されたマスクの投稿が「コップの中の嵐」ではないことは明らかだ。またこちらの記事によると、大統領選挙期間後半、他の言論SNS(Threads、Blueskyなど)より30倍以上の訪問者がおり、アメリカの言論SNSとして支配的な地位を得ているようだ。

目次

新しい言論空間の形成

「大手メディア産業複合体」こそが「2024年の最大の敗者」

 こちらのCNNの記事に面白い指摘がある。

> トランプが5日投開票の大統領選を制して以降、忠実な支持者の一部は、トランプの勝利によりニュースメディアが完全否定されたと断言した。6日午前のある時間帯、ウェブマガジン「フェデラリスト」の主要見出しはトランプに関するものではなく、「大手メディア産業複合体」こそが「2024年の最大の敗者」だと主張する内容だった。(強調は著者)

 今回の選挙で明らかになったのは、大手メディア(既存メディア)の影響力の低下と、ソーシャルメディアという新しい言論空間の勃興ではないだろうか?

ソーシャルメディアがもたらす新しい言論空間の生態系

 ソーシャルメディアは、従来の報道メディアとは異なる新しい言論空間を生み出している。従来のメディアは、特定の党派性や文化的勢力によって議題(アジェンダ)設定を行い、視聴者に影響を与えてきた。しかし、ソーシャルメディアでは、個人やインフルエンサーが直接情報を発信し、受け手がその内容を評価する新しい構造が形成されている。この変化は、政治的な議論の仕方や文化的なトレンドの形成にも大きな影響を及ぼすだろう。

ポッドキャストと若い男性層

 今回の選挙で、特に注目されるのはポッドキャストの影響力だ。トランプ陣営は、この新しいプラットフォームを活用し、従来は政治的に無関心とされていた若い男性層からの支持を拡大した。たとえば、人気ポッドキャスターのジョー・ローガンは、トランプをゲストに迎えた配信がYouTubeで4500万回、Spotifyで2500万回再生されるなど、新しい言論空間の力を象徴する成功を収めた。(米大統領選が示す新メディア台頭、従来型は衰退

トランプ当選後、イーロン・マスクは、You are the media now.(貴方が今メディアだ)と言った。

 選挙後、マスクは「You are the media now(今や貴方がメディアだ)」と宣言した。彼は、既存メディアが偏向的であり、真実を報道しないと批判している。この宣言は、個人が情報発信を通じて直接影響力を持つ時代の到来を象徴しており、報道メディアがこれまで持っていた独占的な影響力が失われつつある現実を示している。

既存メディアの次の一手と規制の可能性

ソーシャルメディアからの離脱と規制への動き

 既存メディアの影響力低下を受け、彼らが次に取る一手として考えられるのがソーシャルメディアへの規制であろう。ニューヨーク市がSNSを「公衆衛生上の危険」と位置づけた事例や、英国の主要メディアがXへの記事投稿を取りやめた動きなどは、その先触れといえる。これらの動きは、ソーシャルメディアが既存の言論空間に挑戦する存在として認識されていることを示している。

政府との連携と影響力の維持

 既存メディアが視聴者を取り戻すために、言論の力ではなく、政府との連携を通じた規制に頼る可能性が高い。彼らが政治的なコネクションを利用してソーシャルメディアを規制することは、従来の影響力を維持するための最終手段といえるだろう。しかし、これは言論の自由や多様性を損なう可能性もあり、批判の的になることは避けられない。

誰が言論空間を支配するか?

言葉を制するものが文化を制する

 従来、文化や政治的な議論の中心にはハリウッドセレブや進歩的文化人がいた(今回の大統領選挙でも、カマラ・ハリス陣営に支持を表明した。彼らが新しい概念(言説)を生み出し、マスメディアがその言説を広めることで社会の価値観を形成してきた(ハラスメントなどを思い起こすと良い)。しかし、新しい文化の生態系では、これまで注目されていなかった層、例えば若い男性や政治的に疎外された層が、ポッドキャストやソーシャルメディアを通じて影響力を持つようになっている。

新しい生態系の可能性と課題

 イーロン・マスクやジョー・ローガンのような新しい文化的リーダーが登場したことで、従来のメディアの枠組みが変わりつつある。ただ、この新しい生態系も、偏向や情報操作のリスクを完全に排除できるわけではない。特にソーシャルメディアがインフルエンサーによって過剰に支配される危険性やフェイクニュースの拡散といった課題に直面している。この記事は古い生態系が壊れて新しい生態系が生まれるという指摘であり、新しい生態系の方がより良いというわけではないので注意が必要だ。

まとめ:新時代の言論空間とその行方

 2024年のアメリカ大統領選挙は、既存メディアが影響力を失い、新しい言論空間が台頭した象徴的な出来事であった。イーロン・マスクの活動は、個人が持つ情報発信力がどれほど強力になり得るかを示した。同時に、既存メディアが影響力を取り戻すために規制を強化する動きが予想される中で、ソーシャルメディアの自由と多様性を守ることの重要性が問われている。

 この新しい時代には、既存メディアとソーシャルメディアが競争しつつ、情報の質や公平性を高めていくための共存の道が模索されるべきだろう。それが実現するかどうかは、今後の社会や政治の動向にかかっている。

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 上記の内容は、こちらのnote記事イーロン・マスクvs報道メディア、もう一つのアメリカ大統領選を要約したものだ。もう少し詳しく知りたい方はこちらのnote記事を読んでもらえると嬉しい。

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この記事を書いた人

主にSNSの分析を個人の趣味として行っている。X(旧twitter)などを中心に分析しているがその他マスメディアが何に言及したかなどの調査をしている。
興味があるのは、マスメディアによるアジェンダ設定とその影になる誰かの問題は社会問題にならないのか?という設問である。
計算機自体が好きで、特に発表するあてもないデータを集計しては喜んでいる。
X(旧ツイッターアカウント)は shioshio38 お気軽にフォローしてもらえると嬉しい。今回紹介した共感格差は、こちら https://shioshio3.hatenablog.com/entry/2022/09/03/191426
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