何でも「ファクトチェック」では対策を見誤る

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 偽・誤情報対策として注目されてきたファクトチェックが、アメリカトランプ政権の誕生で逆風となっている。偽・誤情報に対する「検閲」との批判が起き、メタ社は第三者によるファクトチェックを廃止した。一方、国内では2024年の兵庫県知事選挙を受け「ファクトチェック活動が必要」という声も上がる。団体の活動には幅がありファクトチェックと一括りにすると実態を見誤り、対策を間違えることになる。

目次

記事数の推移

 国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)に加盟する国内団体は、日本ファクトチェックセンター(JFC)、InFactリトマスの3団体である。JFCが活動を開始した2022年9月から2023年8月までの1年間と短いが、各団体の活動状況を比較した研究発表1を行ったので、その内容の一部を紹介したい。

 各サイトから、ファクトチェック記事の公開日、判定結果(レーティング)、検証対象を収集して確認するとともに、検証対象が拡散していた媒体やプラットフォームや対象の分類を行った。

 対象とした1年間に、各団体のサイトに公開されていた記事は、JFCは157本、InFactは14本、リトマスは49本であった。そのうち告知などを除くとJFCは136本、InFactは14本、リトマスは48本がファクトチェック記事数ということになる。図を見てもらえば分かるが、JFCリトマスは継続的に活動しており、InFactは断続的に活動していた。

政治家の発言から海外面白ネタまで

 対象言説が拡散していたプラットフォームとしてはX(旧Twitter)が最も多く、対象アカウントは個人運営と見られるものが多い。

 JFCでは、海外で拡散している話題が57本ある。「バイデン大統領(当時)が死去」といった国際ニュースに関するものから、「海底を四足歩行するタコ」(実際はタコ型ロボット)という面白ネタの話題も検証している。

 政治家を対象にした記事は9本で、自民党の片山さつき氏と高鳥修一氏が「LGBT差別禁止法があるのはG7でカナダだけ」などの言説を拡散しているのに対し、「ミスリード」と判定している。また、元首相の鳩山由紀夫氏では、東京電力福島原発に関する処理水放出とウクライナでの虐殺に関連する、ぞれぞれの投稿に対し「誤り」との判定している。いずれもSNSで拡散していた。

 InFactは、自民党の石破茂氏が安倍元首相の国葬に関して「イギリスも国葬の(国会)議決をとっている」と発言したことを「誤り」と判定。日本共産党の志位和夫氏が「今日から、75歳以上の高齢者の医療費窓口負担が、1割から2割に。」と投稿したことに対し、「ミスリード」と判定している。志位氏の投稿はSNSだが、石破氏の発言は朝日新聞やTBSテレビが報じたものだ。

 政治家本人の発言だけでなく、れいわ新選組の木村英子氏が「本会議に1回も出席していない」との投稿に対し「虚偽」、自民党の河野太郎氏の顔写真に「マイナンバーカード。私も、返納しました」とテキストが加えられている画像についても「虚偽」と判定している。政治関連の話題を対象にする一方、海外のネタ的な話題は対象にしていない。

 リトマスも海外で拡散している話題が28本あった。リトマスの特徴はメディアを検証対象にしていることだ。調査対象期間については、新聞社では朝日新聞、毎日新聞、産経新聞と共同通信が検証対象となっており、朝日新聞ではデジタル版の見出しが「ミスリード」、産経新聞と共同通信ではウクライナ情報総局長の偽物アカウントを情報源にした記事が「誤り」と判定されている。ネットメディアのABEMA TIMESではワールドカップスペイン戦で三笘薫選手が蹴り返した時の「1.88mm」を「根拠不十分」と判定している。

間違いばかり指摘しているわけではない

 偽・誤情報対策の議論では、ファクトチェックは間違いを正す、活動のように受け取られているところもある。3団体の判定結果を見ても、「正確」や「判断保留」などの結果がある。

 各団体のレーティングは、JFCは、正確・ほぼ正確・根拠不明・不正確・誤りの5種類である。InFactはFIJのレーティング基準を利用し、正確・ほぼ正確・ミスリード・不正確・根拠不明・誤り・虚偽・判定保留・検証対象外の9種類。リトマスは FIJの基準を参考にしながら、正確・ほぼ正確・ミスリード・不正確・根拠不十分・誤り・虚偽・判定保留・検証対象外の9種類となっている。

 レーティングは各団体で少しずつ異なるが、筆者側で「正確・ほぼ正確」「不正確・ミスリード」「誤り」「判断保留・対象外」に整理し直したのが下記の図である。

 リトマスは、毎日新聞の記事が誤解されSNSで拡散されているが記事自体は「正確」だという判定をしている。メディアが対象になっているから、それらがすべて間違っているというわけではない。Xで拡散したのり弁当の表示ラベルに対し、「お菓子のラベルをはっている」という指摘や、「本来の原材料表示の上から別の表示を貼り付けたものです」というコミュニティノートが付与されていることを販売会社に確認することで検証し、表示ラベルはのり弁当のものであり「正確」との判定を行っている。間違いを正すというよりは、事実を明らかにしてユーザーに情報を提供しているといえる。

何でも「ファクトチェック」では解決しない

 JFCリトマスはXなどSNSで拡散する話題を検証しており「ベリフィケーション」と呼ばれる活動が中心となっている。海外での面白ネタのようなものまで取り上げるかどうかは議論の余地もあるだろう。InFactは政治や政策といった話題を中心に検証している。

 調査後も引き続きデータを収集しながら確認しているが、各団体は特徴があり、それぞれが補い合っているとも言える状況にある。各団体は設立経緯や活動方針も異なるが、その違いは利用者からは見えにくいため、分かりやすく示されると良いだろう。

 「ファクトチェックが必要」との議論が高まる兵庫県知事選挙では2本の記事しか公開されておらず、そのうち1本は修正されていたことは前回紹介したが、候補者に対する誹謗中傷やマスメディア批判などは、ファクトチェック団体が取り組むべき対象なのか疑問もある。各団体の活動方針は尊重されるべきであり、何でもファクトチェック団体に押し付ければよいというものでもない。既存メディアが行うべき対象もあるだろう。

 ファクトチェックという言葉が分かりやすいため、都合よく使われている側面がある。以前にフェイクニュース対策という言葉が偽・誤情報対策と混同されて使われていることが対策の課題となっていることを指摘したが、それと同じような状況となると対策を見誤ることになる。「ファクトチェックが必要だ」という安易な結論こそ問題だといえる。

  1. 2024年社会情報学会(SSI)大会で「ファクトチェック団体の取り組みを検証する」というタイトルで発表を行った。 ↩︎
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この記事を書いた人

藤代 裕之のアバター 藤代 裕之 リサーチフェロー

法政大学社会学部メディア社会学科教授
広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期課程修了。徳島新聞社で記者として司法・警察や地方自治などを取材。NTTレゾナントに転職し、ニュース編集やNTT研究所のR&D支援(gooラボ)、新サービス開発などを担当した。2013年から法政大学社会学部メディア社会学科准教授、2020年に教授。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表理事。著書に『ネットメディア覇権戦争
偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社)、編著に『フェイクニュースの生態系』(青弓社)などがある。

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