オルトテック・ユーザーが評価する検索エンジン〜結論先行型監査〜

検索エンジンの監査とは、研究者が1つまたは複数の検索エンジンで一連の用語を照会し、その結果を分析するもので、検索エンジンの相対的な信頼性を評価する上で長い間役立ってきた。一方で、オルトテック1・プラットフォームでは、ユーザー主導で疑似科学、白人ナショナリズム、陰謀論で満たされた検索結果を好む評価基準によってこの信頼性監査と似た方式の「監査」が行われている。本論文「How alt-tech users evaluate search engines: Cause-advancing audits」(EVAN M. WILLIAMS、 KATHLEEN M. CARLEY)ではこれらを「結論先行型監査(cause-advancing audits)」と呼び、インターネット掲示板内でのこの調査の手法を明らかにし、またそれによってどのように誤情報が拡散されているかを明らかにすることを目的としている。
リサーチクエスチョン
・オルトテックのユーザーは検索エンジンについてどのように議論し、関わっているのか?
・4chanの「/pol/」2掲示板(ポリティカルコレクト掲示板)のユーザーが好む検索エンジンは何か?
・オルトテックユーザーは、さまざまな検索エンジンをどのように評価しているのか?
研究がもたらす意義
白人至上主義者などが属するオルトライト3・プラットフォームでは、検索エンジンを「大義を推進する」ツールとして利用するユーザーが増えており、その中で特定の検索エンジンが信念に沿った結果を返すかを比較・評価する主観的な「検索エンジン監査」が行われていると論文は主張している。例えば、「goy」4や「ワクチンによる傷害」といったキーワードを使い、反ユダヤ的、白人至上主義的、陰謀論的な情報を優遇する検索エンジンを特定し、その結果を推奨する傾向が見られる。このような監査は学術的なものとは異なり、意図的にイデオロギーに基づいた情報を強化し、選択的に信頼できる情報を受け入れるプロセスを反映している。検索エンジンの結果が政治的・社会的偏見を強化する一方で、ユーザーは自身の信念体系に沿った「カスタマイズされた現実」を作り上げていく。この現象は、メディアの細分化やソーシャルメディアにおける分断と並行して、検索エンジンにおける情報の政治化と分断化が進んでいることを示していると論文は主張している。
オルトライト・プラットフォーム内で行われていること
本論文における調査結果として、著者は
・「結論先行型監査」は定期的に行われている
・「結論先行型監査」は、人種、イデオロギー、または疑似科学的な基準で評価されている
・Yandexが最も結論先行型監査で「勝利」し、オルトテックユーザーのナラティブの強化に役立っているとされている
という項目を挙げている。
「結論先行型監査」は定期的に実施されている
論文では、4chanの「/pol/」掲示板から30種類の検索エンジンに関する25万件の言及を引き出した後、少なくとも3つの検索エンジンに言及し、かつ1つ以上の検索エンジンを推奨する1,218件のコメントを特定するという手法で当該項目に関する投稿の抽出を行っている。結果、これらの条件を満たすコメントは、2018年1月から2024年7月までの間に月平均15回出現したと述べている。また、論文内ではCOVID-19のロックダウン開始時やワクチン接種開始時には特に投稿が増えるスパイクが発生し、掲示板内のスレッドでは、コメント欄で検索エンジンの品質に関する会話が繰り返し交わされたことが紹介されている。
「結論先行型監査」は、人種、イデオロギー、または疑似科学的な基準で評価されている
論文では、「結論先行型監査」を評価する際にユーザーが用いるいくつかのアプローチを定性的に観察した結果、重複することが多い4つの評価戦略を特定したと述べられている。
人種別カウント
複数の検索エンジンで「アメリカの発明家」などの用語を検索して、検索結果として返された画像に写っている非白人の人数を数え、最も非白人が少ないエンジンを推奨する。
特定のURL取得
特定のウェブサイトや記事、動画を複数の検索エンジンで検索し、URLがみつかった検索エンジンや上位表示された検索エンジンについて議論する。
検索エンジンへの誹謗中傷
明確な根拠や理由もなく検索エンジンを中傷し、それを理由に別のエンジンに切り替える。反ユダヤ主義的性質のものが多く含まれる。
検索エンジンの検索結果ページ(SERP)のイデオロギー的一致度
ユーザーのイデオロギーと一致する検索結果の数を定量化する。米国での選挙不正の証拠、ロシアの国営メディアのソース、反ワクチンコンテンツなどを返す能力で検索エンジンを評価する。
Yandexが最も結論先行型監査で「勝利」している
論文では、GPT-4o-miniを使用して、3つ以上の検索エンジンを比較した1,218件のコメントそれぞれにおける検索エンジンの相対的なランキングを抽出している。その結果として、「Yandex」(ヤンデックス)と呼ばれる検索エンジンが他のどの検索エンジンよりも多く推奨されていることが判明した。一方でDuckDuckGoとGoogleは最も多くの批判を受けており、その多くは両社の所有権を巡る反ユダヤ主義的な苦情に起因するものだったと論文は述べている。
論文内では、先行研究を引用する形で、クレムリンと密接な関係を持つロシアの投資ファンドによって2024年に買収されたYandexがクレムリンの目的に沿ったプロパガンダや偽情報を広めるツールとしてますます機能していること、クレムリンのプロパガンダ機関が検索順位を操作しようとしていること、Yandexがクレムリン寄りの誤報やプロパガンダを増幅していることなどを述べている。
今後求められること
論文内では、先行研究を紹介した上で、最近の学術的な検索エンジンの信頼性監査研究では、オルトテック・ユーザーから最も忌避されているGoogleについて、どの検索エンジンよりも、高度に政治化されたトピックについて最も信頼性の高い英語の結果を返すと紹介している。一方で、反トラスト訴訟などでGoogleが検索エンジン市場でのシェアを減少させた場合に、信頼性の低い情報が一般に広まることにどのような影響があるのかを理解するためには、さらなる研究が必要であるとも述べている。情報検索システムに組み込まれた限界や偏りを一般に知らせるためには、政策立案者や学者が、小規模な検索エンジンの精度や偏りにもっと注意を払うよう呼びかけ、メディアとデジタルリテラシーの教育では、生徒が他の情報源とともに情報検索システムを批判的に評価できるように、アルゴリズム監査を教えるべきだと論文は主張している。
- 「オルトテック(Alt-tech)は、オルタナ右翼、極右、保守派の見解を支持する人々の間で人気が高まっているウェブサイト、ソーシャルメディア、インターネットサービスプロバイダの集合体」((「オルトテック」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2025年5月29日7時閲覧[↩]
- 「/pol/(Politically Incorrect板、政治的非中立/政治的に正しくない/非ポリコレ板)は、4chan内の政治討議を行う電子掲示板」(「/pol/」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2025年5月29日7時閲覧)[↩]
- 「オルタナ右翼ないし、オルトライト(英: alt-right)は、右翼思想の一種である。「alt-right」は「Alternative Right」の略語。アメリカ合衆国における主流の保守主義への代替案として出現した」(「オルタナ右翼」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2025年5月29日7時閲覧)[↩]
- 「ゴイ(Goy、ヘブライ語: גוי)とは、ヘブライ語聖書で「民族」を指す語」「英語では非ユダヤ人を意味する侮蔑語である」(「ゴイ」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2025年5月29日7時閲覧)[↩]