ウクライナは情報統制と誤・偽情報対策の貴重な先行事例

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数少ない誤・偽情報対策の成功例としてのウクライナ 民主主義+統合管理システムの最先端

誤・偽情報対策あるいはデジタル影響工作対策の基本戦略は2種類しかなく、ひとつは中国、ロシア、インドが行っている(行おうとしている)徹底した監視、行動誘導、評価による賞罰による統合管理システム、もうひとつはヨーロッパや台湾が目指している信頼の確立による抵抗力、レジリエンスを強化する信用基盤の構築である。前者は中国、ロシアではほぼ成功しており、世界各国にスマートシティなどの名目で輸出されている。後者はまだ完成されておらず、試行錯誤の段階にある。最近、欧州委員会の共同研究センター(Joint Research Centre、 JRC)が公開した行政コミュニケーションに関するレポートにはその指針とでも言うべき内容が含まれていた。
通常、権威主義国は前者、民主主義国は後者と思われがちだが、後者は実績がなく成功の保証がないため、前者を選択する民主主義国も増えている。ウクライナが民主主義国とすると、増加している民主主義+統合管理システムの最先端とも言える。

ウクライナとロシアは世界各国の世論を味方につける(あるいは相手側から離反させる)ための戦いを繰り広げている。日本ではいまだにウクライナがロシアを圧倒しているという声が多いようだが、実際にはそうとは言い切れない。世界の国数と人口の半分以上が権威主義国に住んでいる実態を考えるとウクライナの圧倒的勝利は、マイノリティになりつつある民主主義勢力のメディアと政府が作り出した幻なのかもしれない。
しかし、ウクライナ国内の世論については危険な兆候はあまり観測されていない。2024年初頭にデジタル・フォレンジック・リサーチラボInstitute for Strategic Dialogue (ISD) などの調査機関が2年目のまとめとして公開した資料を見ると、ウクライナ国内へのロシアの干渉は成功していないと考えてよいだろう。民主主義を標榜する国としての是非はおいておくと、ウクライナの統合管理システムは国内を守ることに成功していると言える。

強化される情報統制、広がるメディアの自主規制

戦時においては政府がある程度情報を統制するのは当然のことと言える。しかし、SNSが世界中に普及した今日、政府の情報統制の境界線はきわめてあいまいだ。ここに誤・偽情報という問題が加わると、さらに複雑さを増し、答えられる者はほとんどいなくなる。その一方で統制される側のメディアは統制が強まれば反発を強める(悪いことではなく、健全な反応)。

戦争の前からウクライナでは国内の監視システム、メディアの統制を行われていた。2022年2月の軍事侵攻以降、情報統制を一層厳しく行うようになった。たとえば、テレビマラソンというものがある。国営メディアを含め、主要メディアが参加する24時間放送の番組で、2014年3月から開始された。ニュースをこの番組に統合し、各メディアは交代でニュースを担当することになっている。つまり、事実上、テレビマラソンにニュースが統合された状態になる。「テレビニュースを前例のないレベルで統制することを可能にした」というアメリカ国務省の指摘をキーウ・インディペンデント紙が紹介している。

ウクライナでは政府を批判したり、汚職を告発したりすることについて独立系報道機関が自主規制が行うようになってきている。これに加えて、調査報道を行っているメディアへの監視や盗聴行為や、ジャーナリストへの襲撃への政府関与が疑われている。これらを政府による言論統制のキャンペーンと考える報道もある(というかウクライナで電話盗聴までできる組織はきわめて少ないので妥当な推測)。
ゼレンスキーはジャーナリストやメディアへの圧力についてはあってはならないこと、と問第が起こるたびにアナウンスしているが、国営メディア以外の取材にはほとんど応じていない。また、監視、盗聴事件や襲撃事件の捜査は遅々として進んでいない。

情報統制と誤・偽情報対策の先行事例としてのウクライナ

ウクライナで起きていることは他人事ではない、ということを言う人は多いが、特に軍事よりも国内管理の方がより身近な問題だと言える。多くの民主主義国はハイブリッド脅威や超限戦の脅威にさらされており、監視、行動誘導、賞罰システムの統合強化に向かっている。日本も例外ではない。ウクライナは民主主義と統合管理システムを運用している貴重な先行事例だ。
日本の問題はいまだにアメリカのやっていることが効果的あるいは進んでいると誤解している人々が多いことだ。アメリカが国内の情報統制に失敗していることはこの10年間の社会動向を見れば明らかだ。統合管理システムを目指すとしても、中途半端なやり方をすれば今のアメリカのようになる。その兆候はすでに出ている

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