トランプ暗殺未遂で広がる共和党と民主党の陰謀論と分断の構図
トランプ暗殺未遂事件の数分後から拡散した両党支持者の陰謀論
トランプ暗殺未遂事件の数分後から、親トランプと反トランプの陰謀論合戦は始まった。親トランプ派の間にはバイデンが仕組んだ、反トランプ派の間には自作自演(staged)などの陰謀論が飛び交った。
NewsGuardの調査では、およそ1日の間に「staged」30万8千回使用され、Xのトレンドにもなった。
・トランプが血の錠剤(blood pill)で出血を偽装した X 470万回以上
・プロジェクト2025から目をそらすため TikTok 110万回以上
・銃撃犯が外すのはおかしいし、トランプの後の群衆は逃げていなかった TikTok 70万回以上
・トランプが自分より屈強なシークレットサービスを押しのけて拳を振り上げたのは不自然 X 930万回以上
・なぜ、犯人が狙撃するまで待っていたのか? X 930万回以上
共和党と民主党双方がカルト化し、過激になる
トランプの共和党が以前から陰謀論と親和性が高く、QAnonなどを信じている者が多いことは知られていた。一方の民主党はリベラルという印象があるが、2016年の大統領選にロシアが干渉したというリベラルの主張を陰謀論と揶揄する者も多い。保守的なSNS利用者はこうした主張を「ブルーアノン(Blue Anon)」と呼んでいる。
分断が広がってゆくにつれ、民主党支持者の間にも、「質問や批判的な問いかけを許さない」、「脱退するのは正当な行為ではない」、「脱退した者はものごとに否定的か、邪悪な考えを持っている」「民主党と指導者は常に正しい」といったカルト的な兆候が出ているとGurardian誌は報じている。民主党の大統領候補に名前が出たケネディ・ジュニアは陰謀論者として有名だ。
共和党では民主党への憎しみとなって過激な発言に結びついている。極右は、これを民主党が仕掛けた戦争だととらえる者も多く、皆殺しにするという発言まで出ているとwired誌は報じた。実際、暗殺未遂事件の場に居合わせたAxioの記者は、トランプ支持者から「お前らのせい!」と罵倒され、「次はお前らだ!」と言われた。トランプ支持者数人が報道エリアに侵入しようとしたが、警備員に止められたという。
この分断にはメディアも重要な役割を果たしている
こうした問題が起こると、SNSプラットフォームの問題が取り沙汰されることことは多い。おそらくSNSプラットフォームに責任があることは確かだが、その一方で過剰に報道することで対立を煽っている可能性を考えることも重要だ。
たとえば、暗殺未遂事件の後に陰謀論が飛び交ったことは多くのメディアで報道されているが、陰謀論についての発言で1千万の閲覧を超えるたものはほとんどない。それに比べると、事件そのものについての報道や画像は数千万の閲覧に達しているものがいくつもある。おそらくもっとも閲覧されたのはイーロン・マスクのポスト(これとかこれとか)だろう。それぞれ2億を超える閲覧数だが、誤・偽情報でも陰謀論でもない。他の億近い閲覧のポストのほとんども誤・偽情報ではないようだ。
近年、いくつもの論文やレポートで指摘されているように、ほとんどの人が誤・偽情報を目にする確率はきわめて低いのに対して、誤・偽情報に関する報道ははるかに多いのだ。2024年5月28日にケンブリッジ大学で刊行された「How News Coverage of Misinformation Shapes Perceptions and Trust」(日本語での紹介記事)では、誤・偽情報は平均してアメリカ人のメディア摂取量のわずか約0.15%を占めているにすぎないと推定されていることが紹介され、ほとんどのメディア報道が誤・偽情報の問題でSNSをスケープゴートにしていることを指摘している。これは一例で、類似の調査研究はいくつもある。
メディアがマッチポンプとなっている状況を利用して、あえて誤・偽情報をメディアに通報して、メディアを介して拡散する作戦Operation Overload(日本語の紹介記事)も実施されているくらいだ。メディアのあり方もより透明性のあるものに変わっていかなければならない。