小児病院へのミサイル攻撃にともなう反ウクライナ・ナラティブ拡散

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2024年7月8日、ウクライナの複数の都市でロシア軍によるミサイル攻撃が行われ、ウクライナに甚大な被害が発生した。すでに世界中で報道されているとおり、首都キーウにある同国最大の小児科施設オーマトディト小児病院もミサイルの直撃を受け、2人が死亡した。

この小児病院への攻撃は、世界中から多くの非難を集めた一方で、様々なデマを拡散する機会としても利用された。つまり、オーマトディトの悲劇の責任を「ロシアではなくウクライナ自身や同盟国」に押しつけるプロパガンダが、東欧の国々を中心として広められている

ロシアは軍事行動やサイバー攻撃とデジタル影響工作など他の作戦と連動させて行うことが少なくない。たとえば2023年12月11日に機密扱いが解除されたアメリカ国家情報会議(National Intelligence Council)の資料「Foreign Threats to the 2022 US Elections」には、ロシアがアメリカの選挙日程に合わせて軍事行動を調整していたことなどが記されている。
また、ロシアのNTC Vulkan社から漏洩した内部文書には、デジタル影響工作と産業施設へのサイバー攻撃(OT攻撃)の連携を意識したインフラ攻撃インフラ攻撃トレーニングプログラムCrystal-2に関するドキュメントが含まれていた。

先日、米DFRLab(Digital Forensic Research Lab)の常駐研究員Ruslan Trad氏が、この「東欧で広められた親ロシアのプロパガンダ」について詳しく解説する記事を発表した。

Trad氏によると、この攻撃が起きたとき、ブルガリアのグループやチャット、チャンネルで最もよく見られたデマのひとつは「ウクライナの防空ミサイルAIM-120が小児病院を攻撃した」という証拠のない主張だったという。ブルガリアではFacebookがプロパガンダ配信の主なプラットフォームとなっており、そこでは組織化された偽情報攻撃が定期的に行なわれているようだ。

また現在のブルガリアではTelegramの人気が、とりわけ反政府的なメッセージや親ロシア的な論点を伝えるTelegramチャンネルの人気が高まっているという。ここでは「小児病院への攻撃はウクライナの自作自演である(その病院は6ヵ月前から閉鎖されており、実際には武器や弾薬の貯蔵庫となっていた)」という説も拡散された。

一方チェコでは「ウクライナの防空システムの配置に問題があったせいで(都心に近すぎたせいで)小児病院が攻撃された」という説も流布されている。別の情報筋は、その説に加えて「ウクライナ政権は欧米諸国から資金を集めるために、今回のことを利用している」と主張している。

また親ロシアおよびロシアチャンネルは、「ノルウェー製のウクライナの防空ミサイルが、ロシアのミサイルを迎撃しようとしたとき、キーウの子供病院を直撃したのだ」という別の説も展開している。さらに今回の悲劇はワシントンDCでNATO首脳会議が開催される直前に起きたものだと指摘し、「これまでにも首脳会議の直前に同じようなパターンの事件が起こってきた」と主張することで、ウクライナと西側の同盟国が「意図的に事件を起こした」可能性を示唆した。

Trad氏は、最後にミサイルの技術的な特徴や地理的な根拠を示したうえで「オーマトディト小児病院を襲ったのは、ロシアのKh-101巡航ミサイルだった」と解説し、記事を締め括っている。

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