トランプ暗殺未遂事件で陰謀論はどれくらい広がっているのか?

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現在までのところ、海外からの干渉の痕跡は見当たらない

トランプ暗殺未遂事件以降、陰謀論や誤・偽情報が拡散していることを欧米の主要メディアがこぞって報じている。しかし、ほんとうにそれほど大規模に拡散しているのだろうか? 海外からのデジタル影響工作の痕跡はあるのだろうか?

当社は予算がないので、自前のSNSモニタリングツールですぱっと解析できないのだが、幸いなことに誰でも手軽に使えるHamilton 2.0 Dashboardという便利なものがある。Telegram、YouTube、Facebookなどにおける中国、イラン、ロシアの干渉の状況を確認できる。Telegram、YouTube、Facebookの干渉のグラフを見ると、少なくとも今のところ特別目立った動きはない。事件の起きた7月13日あるいは14日に通常よりも活発になったようには見えない。また、TelegramやFacebookでは陰謀論は上位に来ていないようだ。

Hamilton 2.0 Dashboardより

この後、専門機関がくわしく調査すると思うので、そこで痕跡が見つかるかもしれないが、プロパガンダメディアや外交官などHamilton 2.0 Dashboardがカバーしている範囲に兆候が現れていないのは珍しい。Hamilton 2.0 DashboardはXをカバーしていないので、Xを中心に行われた可能性はあるものの、大規模なキャンペーンの場合マルチプラットフォームで行うことが多いはずなんだが。

事件後24時間「Trump」に言及したツイートは約600万件

DFRLabスタッフのツイートによると、SNSモニタリングツールのMeltwaterを使って「Trump」という言葉を使用したツイートは事件後24時間で597万件に達した。「staged」(自作自演)、「Biden orders」(バイデンがやらせた)という陰謀論を示す言葉の利用も急増した。
「staged」(自作自演)は36万件(前回の記事で紹介したNewsGuard社の数字より2割ましになっている)、バイデンや民主党あるいは左翼やリベラルなどの関与を指摘したツイートは60万件に達した。36万件、60万件と聞くと多く聞こえるが、トランプという言葉をツイートしているのは約600万件あるのだ。陰謀論にあふれているというほどではない。しかも事件直後だから、ほとんどは事件について語っていただろう。多数のツイートは陰謀論とは関係のないものだった。トランプに言及していないすべてのツイートの中での割合は大きく下がるだろう。前回の記事で紹介した数字から考えると、さらに閲覧数ではもっと割合が下がるだろう

なお、前掲のHamilton 2.0 DashboardではTelegramの上位には中国、イラン、ロシアが発信する陰謀論は来ていない(ふつうに事件をニュースとして流したものはあった)。

第2ステージに入っているデジタル影響工作

一昨年、昨年からデジタル影響工作は、デジタル影響工作そのものよりも防御側の自滅的な反応による効果を期待できるようになった。メディアはビジネス上のメリットから誤・偽情報や陰謀論の記事を書くインセンティブがあることに気がついた。誤・偽情報や陰謀論の記事はよく取り上げられるようになっているので読んだ者は実際よりも過剰に拡散や悪影響を受けていると感じるようになる。ファクトチェックや対策も行うことで、そのものだけではたいした実害のない誤・偽情報や陰謀論を害のあるものとして認識し、情報を過度に警戒するようになる。

わざわざ陰謀論が大変なことになっていると報道する意味はあるのだろうか? むしろ逆効果なのではないだろうか? と思うのは当然だ。起きていることの重要性とは別にメディアにとっての重要性が別にあるという指摘した論文がある。以前の記事でも紹介したので簡単にポイントだけ言うと、調査の結果として下記のような点でメディア・ビジネスに取っておいしい話題なのだという。

・誤・偽情報のニュース報道は人々のSNS上のニュースに対する信頼を低下させ、既存のニュースへの信頼を高める
・裕福な層ほど誤・偽情報のニュースに関心があり、彼らはメディア・ビジネス上貴重な読者
・誤・偽情報に関する見出しが他の政治報道よりも偏っているとは認識されていないという調査結果は、党派を超えてアピールする記事を求めているメディアにとって魅力的だ

なお、SNSモニタリングツールをお持ちの諸氏は是非数字を確認していただきたいし、できれば結果を教えてほしい。

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