ハリス大統領候補をめぐるロシアの誤・偽情報
大統領選挙から撤退したバイデン大統領がカマラ・ハリスを後任に指名したことを受けて、ネットには誤・偽情報が次々と現れた。たとえば、カマラ・ハリスはアメリカ生まれではないから資格がないというデマ。オバマの時にも出回ったデマと似たものだ。もちろん、すぐにファクトチェックされている。その他、黒人ではないといった人種に関連するデマもある。
ハリスが大統領候補になったことで、ロシアは公式には中立的な立場を装っている。報道官のドミトリー・ペスコフは、やや湾曲的な表現で「他国の内政には介入しない」「我々にとっての最優先事項は『特殊軍事作戦』である」と無関心を示すような発言を行ってきた。しかし実際には、人種差別や性差別を激しく煽り立てるような「反ハリス」のプロパガンダを展開しているようだ。
国際ジャーナリストのEva Hartog氏が7月23日のPoliticoへ寄稿した記事によれば、ロシアの国営放送では「核ボタンを持つカマラは手榴弾を持つ猿よりもタチが悪い」とコメンテーターが語るような番組を日曜夜のトークショーとして放映している。その番組は、トランプがハリスの笑い声を「狂気の兆候」だと語る場面を見せたのち、ハリス氏が実際に笑っている複数の場面をまとめた映像を流した。
「モスクワがウクライナとの戦争を始めて3年目となる現在、彼らは米国の混乱に飛びついている。ロシアを欧米より優れた国だと印象づけ、また国民の注目をそらす機会としてそれを利用している」とHartog氏は述べた。氏によれば、国営メディアのみならず、ソーシャルメディアの親ロシアのコメンテーターたちも「バイデンは負け犬だ」「ハリスは邪悪だ」「もはや米国における民主主義は根本から破綻している」という同じ内容の主張を無数に投稿しており、中でも「ハリスを標的とした罵詈雑言」が特に激しくなっているという(Hartog氏は、カマラを「ロシアの新しいサンドバッグ」だと表現した)。
いわゆる「ディープステート」を絡めた陰謀論も展開されている。ロシアのアナリスト、セルゲイ・マルコフは自身のTelegramチャンネルで「ディープステート全体がハリス氏を支持するだろう」「特に欧州を中心とした同盟国のすべてはハリス氏を支持するだろう」と書き込んだ。また2020年の米大統領選挙(ディープステートが不正操作したと彼は考えている)と同じように、今回も欧州が重要な役割を果たすだろうと主張した。
そしてソーシャルメディアでは、インフルエンサーを含めた親ロシア派のアカウントが、カマラの人種や年齢について、侮蔑的な表現を用いながら、陰湿で過激な暴言を繰り返している。
注意しなければならないのは報道は大統領選を煽っているという点だ。以前の記事でトランプ暗殺未遂事件で誤・偽情報や陰謀論の拡散やロシアの大規模な介入がなかったことをお伝えした。今回もやはり規模の大きな拡散やロシアの大規模な介入は確認できなかった。
Hamilton 2.0 Dashboardより
アメリカ大統領選ではなにか起こるたびに誤・偽情報や陰謀論が飛び出し、拡散される。しかし、多くのメディアと研究機関はその相対的な規模を決して伝えてくれない。「300万も閲覧された」と書けば大変だと思わせることができる。しかし、他に数千万、億単位の閲覧の投稿がたくさんあるなら、300万の重要性は相対的に下がる。報道によって誤・偽情報や陰謀論の投稿、拡散が広がることも少なくない。