ファクトチェックは重要な事実を隠すことがあるというコロンビア・ジャーナリズム・レビューの指摘
コロンビア大学ジャーナリズム大学院が発行しているコロンビア・ジャーナリズム・レビューは、2024年7月26日、ファクトチェックが重要な事実を隠すことがあるという懸念の記事「Did fact-checkers overlook signs of Biden’s decline?」を公開した。ファクトチェックは(たいていは意図せず)、事実の隠蔽に加担してしまうことがある。
6月のG7でバイデンが他のメンバーから離れてふらふらと歩く動画が出回った事例などバイデンの衰えを示すさまざまな動画が広がった。これらは主として保守系のメディアが取り上げていた。こうした記事にワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、NBCなどのメディアはファクトチェックの結果をあげて反論した。
拡散されたG7サミットの動画は落下傘部隊が降りて来たのをG7メンバーが見ているものだった。降下してきた落下傘部隊は複数名おり、他のメンバーが見ているのとは違う落下傘部隊のメンバーをバイデンは見ていたのだ。しかし、バイデンが見ていた降下してきた隊員動画には映っていなかった。落下傘部隊も含めてみるとバイデンの行動はふらふらと歩いていたのではないことがわかる。「こうした悪意ある動画はバイデンには充分な体力があることを有権者に伝わりにくくしている」と反論したメディアもある。
動画を拡散した主体は、バイデンが大統領という重責に耐えられる状態ではないと主張をしていた。結果として、バイデンが大統領選から降りたことでこの主張は正しかったことになった。
コロンビア・ジャーナリズム・レビューは、バイデンが大統領選から降りた後、動画に反論した各誌に、あの時の記事を見直すつもりがあるかを問い合わせた。全て再見直しはしないという回答だった。
確認された情報の真偽のみに焦点を当てた報道には意味がある、という考え方は広く支持されている。確かにファクトチェックは個別の具体的な事実の確認には効果的なものの、全体像を見えなくすることがあるという指摘もある。主張の根拠となった事実がファクトチェックで否定されたことが強調され、他の事実や解釈によって主張が検証可能であることまで否定されたように見える。
たとえば今回例にあげた動画の完全版(バイデンが見ていた隊員も映っている)を見た専門家は「バイデンの注意力が低下していることがわかる」とバイデンの能力への懸念を表明した。仮に落下傘部隊が映っていた動画を使ってもバイデンが抱えている問題を指摘することは可能だった。より効果的にするために一部を切り取ったにすぎない。ファクトチェックは、完全な動画で専門家の意見を確認することなく、まるごと否定した。
コロンビア・ジャーナリズム・レビュー自身も以前からファクトチェックの課題に取り組んできた。しかし、メディアの透明性や信頼性を確立するためのものであるにもかかわらず、ファクトチェックを見た視聴者は一種の策略とみなすことが多く、逆にメディアの信頼性落としている可能性があるという。
この記事を読んで、すぐに頭に浮かんだのは日本のファクトチェック機関でも同種の問題が起きていることだ。ファクトチェックそのものを策略や欺瞞と感じる意見は少なくない。