イランによる親パレスチナ・反イスラエル影響工作を、アメリカ国家情報長官が警告
米国のアブリル・ヘインズ国家情報長官は7月9日、昨今のイランによる影響力の行使に関する声明文を発表した。その全文は国家情報長官室のプレスリリースで読むことができるのだが、タイトルも前置きも回りくどい。さらに表現を選びながらセンシティブな話題に触れようとしているためか、かなり読みづらい文章だと感じる向きも多いだろう。少々大雑把になるが、ここでポイントをまとめてみたい。
声明の内容は主に「イランが海外の国に対する影響力を強化している」「それはますます攻撃的になっている」という警告だ。特に問題視しているのは、イラン政府による米国市民への心理的な干渉作戦で、その具体的な手法として「ソーシャルメディアなどを利用した、米国市民に抗議活動を煽るためのサイバー活動」が取り上げられている。
ご承知のとおり、米国ではガザの紛争に対して、つまりイスラエルが民間の犠牲者を大量に生み出していることに対して反発する動きがあり、全米の複数の大学でも抗議活動が行われてきた。それらは米国市民の分断を煽るものだ、と懸念する人々もいる。
そして今回、ヘインズ長官は声明文の中で「イランの政府関係者が『ガザの戦争に対する(米国での)抗議活動』を好機として利用しようとしている」と警告した。さらに、イラン政府の関係者たちがオンラインで一般の活動家になりすまし、抗議活動を奨励したり、あるいは金銭的な支援を行ったりしていることが確認されたとも主張している。
しかし長官は、いま行われている抗議活動が「SNSでイランに先導されたものだ」と訴えているのではない。むしろ「抗議を行っている人々が誠意を持ってガザ紛争への意見を表明しているということは明確にしておきたい」「多様な意見を平和的に表明する自由は我々の民主主義に不可欠だ」と念を押したうえでイランの政府関係者によるサイバー活動を説明し。「我々の議論を、自らの目的のために利用しようとする国外の輩に注意せよ」「すべての米国市民は、知らないアカウントや知らない人物とオンラインで交流をする際に警戒せよ」と訴えている。
この話題(および、この話題に対する米国政府の姿勢)は、先日のネタニヤフ首相の演説と大きくリンクしている。イスラエルのネタニヤフ首相は24日、米議会で行われた演説の中で、反イスラエル活動に参加している市民を「イランにとって便利な愚か者(Iran’s useful idiots)」だと罵倒した。翌日、ホワイトハウス報道官のカリーヌ・ジャン=ピエールと国家安全保障会議戦略広報調整官ジョン・カービーが行ったプレスブリーフィングでは、以下のような会話があった。
質問「昨日、イスラエル首相は抗議者の一部を『イランにとって便利な愚か者」と呼んだ。政府はどのように対処するつもりなのか?」
カービー「まず、それは我々の言葉ではない。イランが確実に米国への干渉を試みていることは私も承知している。イランが(米国民の)不和を煽り、一部の抗議者に資金提供をしていることは明らかだ。しかし私は──私は全ての抗議者をそのように見なすのは遺憾だと考えており、そして──そして彼らを正確に表現してはいないと考える。米国で行われている抗議活動のほとんどは平和的で、大部分は──その活動のほとんどは、実際に関心を持った人々から生まれた本質的なものだ。それこそが民主主義そのものである」