サウスポートの暴動と報道
事件のあらまし
イギリスのサウスポートで少年が起こした事件に関する偽情報がSNS上で拡散し、翌日極右グループを中心とした人々が騒動を起こした。日本でもいくつかのメディアで取り上げられた。この暴動は偽情報と極右のどちらを主として報じるかで印象がだいぶ違う。この場合は、極右を主に報じるべきだろう。なぜなら今回の場合、偽情報だけでは暴動は起きなかった可能性が高いが、極右は極右だけで騒動を何度も起こしている。日本では1紙が極右に全く触れていない報道を行っていた。
2024年7月29日、イギリスのサウスポートで17歳の少年が刃物で多数を死傷させる事件が起きた。ISDの分析によれば、この事件の直後、事件現場に居合わせたという人物が犯人は移民で国境を封鎖すべきだという書き込みがあった。犯人の名前や素性も明らかにされた(もちろんでたらめだが)。その後、他のアカウントによって拡散された。そこで名指しされた犯人の名前はX上で18,000のアカウントから3万回以上使われた。
これにより、XとTikTokではアルゴリズムによって、トレンド入りしたり、推奨投稿になったり、さらに拡散した。
翌日になると、極右ネットワークが仲間にオフラインの抗議活動を呼びかけた。きわめて短時間に多数が動員され、攻撃活動を追悼集会を襲撃し、50人以上の警察官に負傷を負わせる事態にまで発展した。
暴動の原因
暴動の原因は最初の偽情報と、それを利用した極右ネットワーク(English Defence League.EDL)を中心とした極右の抗議活動だった。主要な海外メディアではこの暴動の報道には偽情報と極右がセットになって出てくる。そうしないと、事件の本質を見誤るからだ。極右ネットワークによる組織的な動員があったことに触れないと、まるで一般市民が反移民の抗議活動を行っているかのように受け取られる可能性がある。
1紙だけが極右の関与に触れていなかった
現時点での報道の内容を確認してみたところ、下表のようになった(暴動を記事化していなかった場合は「記事」に○がついていません)。なぜか、1紙だけが、極右あるいはEnglish Defence League(EDL)の関与に言及していなかった。
メディアはなにを取り上げ、なにを取り上げないかを決めている。その判断基準は外部からはよくわからないし、説明しようとする姿勢もない。
その一方で、SNSプラットフォームは政府や世論の要請に応じて、アルゴリズムを始めとする透明性の向上を行っている(充分とは言えないが、やらないよりははるかにマシ)。APIや統計の取れるツールまで公開している企業もある。メディアはこうしたことを一切行っていないし、代わりに文書や資料を公開することもない。こうした透明性の低さがメディア不信につながり、認知戦やデジタル影響工作のターゲットにされる隙を作っている。特に今回のように意図的に騒ぎを大きくしようと考えているアクターがいる場合は注意が必要だ。
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