イギリス各地を暴力に巻き込んだ反体制ポスト組織ネットワーク
拡大する暴動 2011年の悪夢再びになるのか?
イギリスで起きている暴動について昨日簡単にご紹介した。反移民、ネオナチ、フーリガン、反イスラムなど、極右などの反体制的指向を持つグループや個人が参加し、イギリス各地へと飛び火している。
サウスポートの事件の後には、200人以上がサウスポートに押し寄せたが、その多くは他の場所から移動してきた者たちだった。集まった暴徒は現地のモスクを襲撃し、5 人以上の警察官が負傷した。翌日には、ロンドンで極右派のデモ隊と警察が衝突し、100 人以上が逮捕、ハートルプール、マンチェスター、オールダーショットでも騒動が起きた。さらにイギリス北東部のサンダーランドでは、極右のグループが放火し、警官隊を攻撃した。
週末には、ハル、リーズ、マンチェスター、ノッティンガム、ストーク・オン・トレント、ベルファスト、リバプールに広がった。リバプールでは、300人以上が暴動に参加し、オフィスが破壊され、2人の警察官が負傷した。さらに8月4日にはロザラムにある亡命希望者向けの宿泊所になっていたホリデイ・イン・エクスプレスに暴徒が押し入った。
イギリスでは警察が対応に追われ、国家警察長官協議会は、暴動に対応するため4,000人近い警官を追加配備した。2011年にイギリス全土で起きた暴動を彷彿させる事態だ。
反体制ポスト組織ネットワークによる暴動
イギリスで極右過激派の活動を監視しているHOPE not hateグループは、いち早くサウスポートの事件について分析を行っていた。同グループは、ファシズムなどについて調査報道しているSearchlight誌のキャンペーンを母体とする組織だ。
最も早い投稿は、TelegramのStimpyというアカウントによるもので、サウスポートの事件後に「Southport Wake Up」というチャットグループを立ち上げ、人種差別やナチスのプロパガンダを書き込み、地元のモスクの所在地までも明らかにした。さらに他の極右活動家やグループが騒動に加わった。
イギリス首相は今回の暴動について、「極右の憎悪によって引き起こされている」と述べ、野党のリーダーであるスナクは一連の暴動は、「先週の刺傷事件とは無関係」と語っている。
イギリスの関係者の間では、今回の暴動は極右などの過激派が起こしたものという認識が広まっている。刺傷事件と偽情報はきっかけではあるものの、騒ぎを起こしたい過激派が利用したのであり、刺傷事件や偽情報によって暴動が起きたわけではない。
今回の暴動では、ポスト組織ネットワークの役割が大きかった、と前述のHOPE not hateは分析している。極右を始めとする反体制過激派は、摘発を逃れて活動するために大きなグループを作らないようになっており、必要に応じてネット上で連絡を取り合うようになっている。そのためひとつのグループのリーダーを逮捕しても、そこから芋づる式にたぐることは難しいうえ、ひとつのグループの規模が小さい(ひとりも珍しくない)ため大きなグループをつぶして勢いを削ぐこともできない。
反体制ポスト組織ネットワークはイギリス以外でもよく見られる活動で、アメリカ最大とも言われる白人至上主義Active Clubの唱えるWhite Nationalism 3.0も同様の戦術を採っている。
なお、一部の報道では、この暴動をイングランド防衛同盟(EDL)を主犯として扱っているものもあるようだが、実際にはポスト組織ネットワークによるものだったようだ。
アジェンダ設定にいそしむメディア
以上が今回の一連の事件のあらましだが、事実や専門家の分析よりも自社に都合のよいアジェンダ設定にいそしんでいるメディアも散見される。前回の記事で指摘したように意図的に偽情報を前面に出そうとする動きや、SNSプラットフォームの対応を問題視したりといった動きが見られる。
メディアがSNSプラットフォームをスケープゴートとして利用していることは、2024年5月28日にケンブリッジ大学で刊行された調査レポート「How News Coverage of Misinformation Shapes Perceptions and Trust」でも明らかにされており、注意が必要だ。
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公開テスト配信 誤・偽情報対策が安全保障上のリスクになる時(8月7日(水)昼の12:00より30分間)