トランプ暗殺未遂事件の混乱下で、中国が「バランスの取れた」印象操作作戦を展開
中国の報道機関は、2024年7月のトランプ暗殺未遂事件の直後から様々なニュースを報じた。新華社や人民日報など多くの国営メディアは、中国政府の公式声明と同様、事実に焦点を当てた報道に注力する傾向があった。一方でChina Daily(中国で最も読者の多い英語メディア)などは、中国側の視点から「米国の銃問題」「深刻な政治的分裂を抱えた危険で不安定な米国」というテーマを強調して報じた。つまり中国の公式的な見解は反米に偏ることなく、公正で信頼できる国としての立場を守りつつ、あくまでも米国を持ち上げないような形でバランスを取ったようだ。
それに対し、中国国内のソーシャルメディアでは、より過激に「トランプ復活」「米国の無秩序と崩壊」などをテーマとした扇情的な書き込みが多く見られ、また国外の親中派アカウントも偽情報や陰謀論を交えながら「混乱した米国」「安定した中国」を印象付けるプロパガンダを展開した。しかし、こうした投稿の傾向、そしてトレンドの表示にも中国政府の意向が表れており、「それは検閲とプロパガンダのバランスを取っている」とDFRLabは8月1日の記事で述べた。
たとえば中国のWeibo(中国版Twitterとも呼ばれるマイクロブログのプラットフォーム)では、銃撃事件から約1時間後、この事件に関連した最初のハッシュタグ #銃声が響き、トランプが演説台から避難した』がトレンド入りした。しかし、そのハッシュタグは突然ランキングから消え、『トランプが銃撃された」という新しいものに取って代わられた。「中国の国営メディアCCTVが管理権限を利用し、ハッシュタグを置き換えた可能性がある」とDFRLabは指摘している。「トレンドのハッシュタグを管理しているアカウントは、特定の投稿を人為的に宣伝する、検閲するなど、コンテンツの操作を可能にする特別な権限を持っている」。
このあとのWeiboでは、「#安倍晋三(#Shinzo Abe)」というハッシュタグも2時間ほどトレンド入りしたのち、突然ランキングから消えた。これは、特に暴力的な反日感情を沈静化しようとしている昨今の中国政府の状況を考慮し、日本の元首相の暗殺事件と比較する投稿を減らすために、コンテンツモデレーターが検閲を行った可能性がある、とDFRLabは重ねて指摘している。
そして事件後の混乱が落ち着きはじめた頃には、「民主党員がトランプの殺害を試みた可能性」や「トランプが同情と支持を得るために仕組んだ内部犯行の可能性」などの書き込みが次々と投稿された。また中国で最も人気の高いソーシャルメディアプラットフォームのWeChatでは、「暗殺こそ欧米の民主主義の本質」といった主張や「トランプが大統領選で勝利する可能性は70%に上昇」といった憶測などが自由に書き込まれた。このような投稿には手を出さず、柔軟な態度を示したことも、「市民が自由に発言できる中国」を誇示するための作戦だったのかもしれない。