アイルランドで極右が台頭 反中絶運動が広がる

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アイルランドで極右団体の煽動する「反中絶」の活動が勢いを強めている。ISD(Institute for Strategic Dialogue/偽情報やヘイト、過激主義を研究している独立組織のシンクタンク)は8月13日の記事で、その背景を詳細に解説した。ここでは時系列にまとめる形で大まかに紹介したい。

~2018年5月
憲法第8条により人工妊娠中絶が非合法とされていたアイルランドで、この憲法の廃止を問う国民投票を行うことが決定した。アイルランドの反中絶派団体と極右団体は、いずれも現行憲法の存続を訴えた。このとき反中絶派団体が「生命の尊さ」との観点から現憲法を支持した一方で、極右団体は「我が国は憲法で中絶を禁止しているユニークな国であり、それを尊重すべきだ」という観点で主張を行っていた。

2018年5月
国民投票で66.4%の圧倒的多数が憲法8条の廃止を望んだことにより、アイルランドでは中絶が合法化された。反中絶をスローガンに掲げていたアイルランドの極右団体は敗北を喫した形となり、それ以降は中絶の問題を避けるようになる。

2019年~2022年
アイルランドの極右勢力は、コロナのパンデミックに関する課題を主体的に取り上げていた。しかしパンデミックの後は「ロシアとウクライナの戦争による難民の流入」と「アイルランドの住宅危機」の問題に応じる形で、「アイルランドはすでに満員だ」というスローガンを掲げ、それは反移民のデモや難民申請者への暴力を煽り立てた。移民問題を利用した極右勢力は、ここ数十年間で見られなかったほどの国民的支持を獲得していく。
この運動が高まるのと同時に、少しずつ「反中絶」の訴えが再興するようになった。
もともと白人至上主義者たちは、中絶などの生殖医療を「白人の大量虐殺の手段」とみなす傾向がある。出生率の低下や避妊や中絶は白人の自殺につながる、という主張だ。これは「グレート・リプレイスメント」──白人を非白人に置き換えるために、白人以外の移民(特にイスラム系の移民)に入植をさせる組織的な取り組みがある、という陰謀論──に組み込まれる要素となる。つまり「中絶」と「移民」の二つの話題にはもともと親和性があった。

2023年~
中絶が合法化されたアイルランドで、1万件以上の中絶手術が行われたことが発表される。一方で「避妊薬を無料で提供する」という政府の計画も発表された。少子化が進んでいるアイルランドで、この二つの発表は「政府が医療政策を通じ、我々のような先住白人を大量虐殺しようとしている」という主張に拍車をかけた。

そして「反移民」を掲げていた極右団体が地方選挙で勝利をおさめる。これで勢いづいた国粋主義者たちの間では、ふたたび反中絶のスローガンが前面に押し出されるようになった。彼らはアイルランドで広がっていた反中絶の抗議活動「Rally for Life」に参加し、あからさまな白人紙業主義の視点から中絶の問題を訴えるようになった。

ISDが今後のアイルランドに関して懸念を抱いているのは、「極右団体が反中絶の活動家たちを過激化させる可能性」、そして「グレート・リプレイスメントなどの陰謀論を信じている国粋主義的なアイルランド市民が、中絶やLGBTQ+の権利などの問題に関しても過激化する可能性」だ。

数年前のアイルランドで行われた投票では、圧倒的多数で同性婚の権利が支持された。しかし2022年以降はホモフォビアによる事件が急増しており、また「生命の尊さ」を理由とするような反中絶の主張は聞かれなくなった。

ISDは以下のように述べている。
「彼ら(アイルランドの極右団体)は国内の活動家運動に影響を及ぼすことで、社会のより広い層に、白人至上主義のプロパガンダを浸透させている。これは移民や人口動態の変化といった『地域で目立っている問題』を『手段』として利用することにより、至上主義のイデオロギーを主流の言説に持ち込むという、世界中の極右勢力に広く見られている傾向を反映するものだ」
ISDは昨年11月にもアイルランドの偽・誤情報について一連の包括的なレポートを公開しており、こちらと合わせて読むことでアイルランドの状況がよく理解できる。

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