トランプが撃たれても「本日晴朗ナレドモ波高シ」のQアノン
近年、アメリカが世界に輸出している災厄は白人至上主義者とQアノンが有名だ。このふたつはヨーロッパで広がっており、Qアノンの動向は欧米の安全保障上の課題になっていると言っても過言ではないだろう。
2022年にはForeign Affairsやワシントン・ポストがQアノンは主流になったと報じたくらいだ。さらに2023年から2024年にかけて、イーロン・マスク効果によってXでのハッシュタグや関連用語の投稿が130倍に増加したことをNewsGuardが明らかにした。
トランプ銃撃事件によって、勢いが削がれることを期待したが、そうはうまくいかなかったことを
WIREDが伝えている。
トランプ銃撃事件が起きた当初、Qアノンの間には混乱や対立や分断が見られた。そのため信者たちの家族や友人の中には、「陰謀論から解放されるきっかけになるのでは」と期待する向きもあった。しかし銃撃事件から一か月が経過した現在、Qアノンの信者たちは以前にも増して信念を深めているようだ。
その事件は誰にとっても衝撃的だったが、Qアノンの信者たちには別の衝撃が広がっていた。彼らの世界観におけるトランプは「ディープステートとの秘密の戦い」を繰り広げており、たとえ現実社会でどのような出来事が起きていたとしても(たとえば有罪判決を受けても)それは「トランプの計画どおり」であると解釈されていた。
しかし「トランプが実弾で撃たれ、その流れ弾で死亡した市民もいた」という事態に彼らは困惑した。Qアノンのインフルエンサーたちも疑問や疑念を口に出しはじめ、相反する解釈の陰謀論が囁かれるようになり、Qアノン同士の間で批判や叱責が起こる事態となった。このままQアノンが統制を失うことに期待した人々も多かっただろう。
だが、その不安定な状態は長く続かなかった。事件から数週間後、Qアノンのインフルエンサーたちが説く陰謀論は「現在もすべてはトランプの制御下にある。今回の事件も計画の一部で、何もかもQアノンの予言どおりだ」という方向でまとまっていた。
そして現在Qアノンの信者たちは、以前にも増して陰謀論に囚われるようになったようだ。信者の家族や友人らはWIREDに体験談を語っている。「彼らは、トランプこそが真の『神に選ばれし者』であり、いかにして『神が彼を守ったか』を信じている」「友人は私に、トランプが復権する11月を前に世界的な金融リセットが起こると主張している」「私の友人はコロナ禍でQアノンの陰謀論にのめりこんだものの、近年ではペットなどの投稿をするようになっていた。しかし銃撃事件以降、また正気の沙汰とは思えない投稿が延々と続いている」
元Qアノン信者であり、その体験談を記した本の著者でもあるカタリーナ・ヴァイアンコートは「(もしも自分が信者だったときに)あの銃撃事件が発生していたら、私はさらに深く陰謀論に囚われていただろう」とWIREDに述べた。彼女の夫は以下のように語っている。
「希望が全くないとは決して言わない。しかし、その負担は『QAnonを信じていない人』に重くのしかかるだろう」「彼女が戻ってくる可能性があるなら『軟着陸の場所』を与えなければならない。それが私の仕事だった」「今までの自分がとんでもなく間違っていたと彼女が気づいたとき、柔軟な着地点を持てるようにしたかった。それは、直面するのが難しい現実だからだ」