Telegramに増殖する分散型コレクティブ・ネオファシストTerrorgramをISDが分析

XとTelegramがテロや偽・誤情報の温床になっていることはよく知られている。Telegramで活動しているTerrorgramはその中でも規模の大きいものだ。2024年4月には英政府によってテロ組織として禁止されている。ISDは2024年8月24日に公開したレポート「Beyond the Collective: Understanding Terrorgram’s efforts to infiltrate the mainstream on Telegram」で実態を明らかにした。
ISDが明らかにしたTerrorgramの概要
レポートに書かれていた内容をかいつまんでご紹介すると下記の通りだ。
・Terrorgramコレクティブはテロ活動を促すプロパガンダを発信する、ネオファシスト加速主義者たちのネットワークである。ISDはTelegramで活動している60を超えるTerrorgramチャンネルを特定し、分析を行った。
・Terrorgramは中心になる3つのTelegramチャンネルがあり、合計の参加者は7万人を超えている。さらにそれらをサポートするチャンネルがある。これとは別に公式のTerrorgramチャンネルがあるが、そちらの参加者はす数百名に留まっている。
・Terrorgramとの関係を表に出していないものも多く、中心の3つのチャンネルのうち2つもTerrorgramのブランドを出していない。
・2つのチャンネルはニュースの収集と紹介が中心であり、情報源は主として大手メディアなどからだ。ニュース提供を装って暴力的なメッセージを拡散する手法は近年の過激派に共通して見られる。残りの1つのチャンネルはスティーブ・バノンのポッドキャスト「War Room」と関係している。このチャンネルの参加者は6万人を超えており、本家の「War Room」に近い。
・3つのチャンネルの参加者はグループチャットへの参加を薦められる。チャットはTerrorgramのプロパガンダや暴力的な内容となっており、さらに3つのチャンネルとより過激なTerrorgramグループの間をつなぐボットが存在した。ボットはそれらのチャンネルの発言を他のチャンネルと共有しており、参加者はボットを通じて匿名でチャンネルに過激なコンテンツを投稿できるようになっていた。
・Terrorgramは影響を与えやすいと判断した場所(チャンネルやグループチャットなど)に進出しており、リーチできる範囲は広がっている。
・ISDが観測した範囲では拡散したものの、多くの参加者は過激で暴力的な方向には向かわず、Terrorgramあるいは加速主義に関心を持っているようだ。ただし、ISDは今後については予断を許さないとして警戒を促している。
中心なきテロ・グループの増加
従来型の組織を持たず、ネット上のゆるいネットワークで連携しているテロ・グループが増加している。今回、ISDがとりあげたTerrorgramもそのひとつだ。攻殻機動隊の「個別の11人」を彷彿させるテロ・グループは「いま、そこにある脅威」となっている。それを端的に示しているのが、代表的な白人至上主義グループRise Above Movement(RAM)のリーダーであるロバート・ルンドが提唱した「White Nationalism 3.0」だ。「1.0」はスキンヘッド、「2.0」はオルトライト、そして「3.0」は以前の弱点や課題を克服した新しいものになっている。その特徴は大きく2つ。
・小規模のグループのネットワークで中心を持たず、少人数のグループをネットワーク化している。「White Nationalism 3.0」のグループActive Club は全米と世界各地に 5~ 25 人のグループがあり、BreakingDown は参加者や関係者の YouTube チャンネルと、日本各地の喧嘩自慢グループ( 5 人 1 チームおよびリーダー数名)で構成されている。
・入り口がわかりやすく、入りやすい。厳しい規則や思想などは不要で、ミームやキイワードに反応して、気軽に参加できる。
定型的な組織を持たず、小規模のグループになり、それぞれが自立的に活動しているため、当局からの捜査が行いにくく、全貌をとらえることも難しくなっている。過去の「1.0」や「2.0」が中心メンバーやコミュニティを特定しやすく検挙されやすかったことの反省が生かされている。
「White Nationalism 3.0」を実装した白人至上主義グループActive Clubは、全米34の州で46のクラブの存在が確認されている。カナダでは12クラブがあり、ヨーロッパでは4カ国に46クラブが存在している。くわしくはこちらを参照。
注意しなければいけないのは、増加しているのはテロ・グループだけではないのだ。同様に社会を守るために定型の組織を持たず、必要な時に連携する個人やグループも存在する。最近では英暴動の際に暴徒と対峙した反ファシストのグループや個人がいた。英暴動の記事で何度か紹介したHOPE not hateもそのひとつだ。
しかし、テロに対しては政府に認識され、対応策も考えられているが、それを抑止するグループに対しては政府は戦略的な支援、保護、育成策を考えていない。
これまでの偽・誤情報やデジタル影響工作を「定型の組織を持たず、必要な時に連携する個人やグループ」も含めた形で整理し直したウェビナーを9月4日正午から行います。くわしくはこちらから。