メディア報道で拡散する偽・誤情報 「偽・誤情報の棚卸し2024」第1回

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本記事は、Data & Societyによる「偽・誤情報の棚卸し2024」の紹介の第1回です。

目次

メディア報道はテロ拡散の酸素

「Oxygen of Publicity(直訳:パブリシティの酸素)」という表現がある。これは1985年にサッチャー元英国首相が発言したことで知られる言葉だ。彼女はテロリストたちがメディアの注目を利用して影響力を拡大していると主張し、この「Oxygen of Publicity」を断つ必要があると述べた。

そしてデジタルメディアの情報操作やトロール行為を研究してきたホイットニー・フィリップス氏は2018年、「The Oxygen of Amplification(直訳:増幅の酸素)」と題された報告書を発表した。彼女はこの報告書の中で「パブリシティの酸素」の概念をアップデートし、「増幅の酸素」に焦点を当てた倫理ガイドを作成している。

それは、従来のメディアとは異なったインターネットの参加型文化によるデジタルメディアやソーシャルメディアが、有害な情報や誤った情報、あるいは極端な意見や差別的なメッセージをどのように広めているのかを分析し、より良い報道を行うためのガイドラインを提供するものだった。

このレポートから6年が経過した2024年8月。フィリップス氏は、Data & Societyのウェブサイトで「Weirder Oxygen and Weirder Amplification(直訳:より奇怪な酸素と、より奇怪な増幅)」と題された新たなレポートを発表した。彼女は「6年前とは大きく異なった情報のダイナミクスと、大きく異なった曖昧さの根源に対処する必要がある」と記している。

メディアの変化と進む断絶

従来のメディアが「ニュースとして価値のある内容を公衆に知らせる」ことを考えていたのに対し、現在のデジタルメディアやソーシャルメディアは「ひたすら注目を集めること」を目指しがちになるため、極端な意見や有害な情報を報じる傾向に陥りやすく、それはインターネットの参加型のメディアの特性によって拡大し、影響力を増し、また正当化されるようになる。これは彼女が6年前のレポートで主張した内容だった。

そして今回のレポートで、彼女は以下のように述べている。

・今日の『ニュース環境の亀裂』は、以前よりもはるかに深くなっている。主流のメディアによる報道が依然として何百万もの人々に届いている一方で、何百万もの人々がTikTokなどのソーシャルプラットフォームからニュース(あるいは少なくとも何らかの情報)を得ている。

・報道が公衆の議論を形成する方法が以前とは異なっており、情報の増幅の仕方も異なっている。そして少々皮肉なことに、いくつかの(従来どおりの)ニュース媒体は、トランプ時代の「増幅」で得た教訓を少し過剰に学んでしまった。

・彼らは「トランプの全ての発言にニュース的な価値があるわけではない」という考えを心に刻んでいる(とりわけ彼が「Truth Social」に投稿しているような、突拍子もない嘘や陰謀論などが忠実に報道されることはない)。これは虚偽や陰謀論の増幅を減少させることに貢献している一方で、多くの人々が「トランプが虚偽や陰謀論を広めていること」について何も知らないままになるという問題もある。

・そしてトランプの発言は、依然として右派のネットワークでは広く循環しており、そのコンテンツ(記事やポッドキャスト、映像など)を求める人々には広範な選択肢がある。

・メディアの断絶が進むのと同時に、多くの人々が政治ニュースを避けるようになった。あまりにも多くの混沌、危機、ノイズが蓄積されたことで、人々は政治ニュースに対する興味を失ってしまった。

・また政治的対立への怒りが蓄積されたこと、そして会話を完全にあきらめたこと、無理だと考えること、退くことも健全な公の議論を損なってきた。多元的な民主主義は、あまりにも多くの人々が妥協できないほどに怒っていたり、あるいは話を聞く気力がないほどに疲れていたりする場合には機能しないからだ。

「偽情報」という枠組みの危うさ

彼女は「偽情報」という枠組み自体に対する反発にも言及している。「メディア操作」に代わって好まれる用語となった「偽情報」の枠組みを批判的に考えるべき理由として、彼女は以下のように述べている。

・もしもあなたが主流のジャーナリズム、学界、政府の中で確立された規範、価値観、証拠基準と一致する立場にいるなら、「偽情報」という枠組みを口にすること自体が「知識の権威の主張」を行うことになる。その言葉を使えば、あなたは多くの保守派にとって「我々を排除しようとする人々」の一人になる。

一部の保守派は、学者や主流ジャーナリストが使う「偽情報」の枠組みを武器の利用のように感じてきた。それは常に反撃を要求する。

「曖昧さ」とは

彼女は「現時点のメディアと政治は、6年前よりも単純に奇妙である」「2024年、メディアの様子の曖昧さは、さらに強烈である」と主張している。ここで言う曖昧さとは「ある人々に対するポジティブな増幅の結果は、別の人々に対してはネガティブな結果をもたらす可能性がある」という考え方だ。このレポートは以下のように締めくくられている。

「我々の組織的コンセンサスの観点から見れば『米国の民主主義を守り維持するために、2020年の選挙に関する真実と、2024年に起こることへの懸念を拡散することが必要だ」という点に疑いの余地はない。しかし同じ取り組みが人々を沈黙させる、あるいは暴力に駆り立てる可能性があるなら、私たちはどうすればよいのか? 答えは出ていない。私は、この質問の意味を理解しようとしているところだ」

メディア報道のマッチポンプ化

以上が、「Weirder Oxygen and Weirder Amplification」の紹介である。
メディアによる報道が問題を悪化させることはネット以前からあった。たとえば、「自殺」に関する報道がさらなる自殺を引き起こす可能性はよく知られているが、一定の倫理的なラインはあるものの報道そのものは続いている。この問題は偽・誤情報でも日常的に起きている。

NewsGuardのAIコンテンツ・ファームの暴露でも同じことが起きたのが、先日(2024年9月4日)には、同社のReality Check Commentaryで開かされた。同社のスタッフが業者に依頼して2日間と$105ドルでAI利用のプロパガンダ目的のニュースサイトを作ったという経緯がウォールストリート・ジャーナルに掲載された。その結果、そこで暴露した方法で暴露した業者に接触して依頼者が激増し、業者からスタッフに感謝を伝えてきた。また、依頼するために利用されたサイトのレビューにウォールストリート・ジャーナルで知ったという書き込みもあった。スタッフは実態を把握し、対策を立てる考えるためには必要なことだったと説明している。偽・誤情報でビジネスをしている以上、説明は詭弁にしか響かない。敵が増え、脅威が拡大するほど、対策の需要は高まる。メディアも同じだ。

メディアが偽・誤情報を取り上げる頻度はきわめて高い。偽・誤情報が深刻な災害や事故を引き起こしておらず、甚大な経済的悪影響を与えていないことを考えると異常とも言える。扇動していると言っても過言ではないだろう。その理由は読者に受けるからに他ならない。付け加えるとクレームも来にくい。偽・誤情報に関するメディアの報道が過剰で偏っているという論文などはいくつもある。このサイトで何度もメディア報道が偽・誤情報を誇張していることを伝えてきた。

日本でも同様の傾向はあり、日本政府がさらに偽・誤情報の脅威を拡散している。偽・誤情報が「民主主義への脅威」というのは欧米でよく使われる中身のない(根拠がない)フレーズで日本でも使われており、これに加えて「情報空間の健全性」や「情報的健康」など、さらに曖昧模糊とした言葉が作られ、この言葉を普及させるための賞「インフォメーション・ヘルスAWARD」まで作られる始末だ。まだ、バブルの頃の夢から醒めていない広告代理店が企画しそうなイベントだ。

EUは来年以降、偽・誤情報対策の見直しを行う可能性が高く(ここでの懸念に応える内容になるはず)、米は大統領選の結果によってだいぶ変化する可能性がある(トランプになった場合は悪化)。
日本は欧米が方向を転換する中、欧米の轍を突っ走って、曲がりきれずに(そもそも方向が変わったことに気づかない)そのまま直進して崖から落ちることがないように祈りたい。

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