選挙への関心の高まるほど、情報を正しく評価しなくなるという報告 重要なのは動機だった
選挙の話題が盛り上がり、人々が政治に関心を示すようになれば、目にする情報が正確かどうかも正しく評価されるようになるのだろうか? 残念ながら、ニュースメディアの研究家Joshua Benton氏は「そうはならない」と結論づけた。米ハーバード大のニーマン・ジャーナリズム財団のメディア「Nieman Lab」に寄稿されたJoshua Benton氏の記事によれば、選挙への関心の高まりは、むしろ正しく評価する可能性を下げるようだ。
Benton氏によれば「人々は怠惰なので、何かの質問を投げかけられたとき、全力で取り組む動機がなければ正しく答えようとしない」。それは、ソーシャルメディアで目にするような記事の見出しを信じるかどうかにも当てはまるという。この説の裏付けとして、Benton氏は過去に行われた四つの研究論文を取り上げた。
・2024年1月のイタリアの論文。被験者3,999人に対し、疑似SNSに投稿された記事が科学的根拠に基づいているかどうか判断させた。被験者の正解率を高める最も効果的な方法は「正解すれば報酬が増える」と伝えることだった。
https://misinforeview.hks.harvard.edu/article/how-different-incentives-reduce-scientific-misinformation-online/
・2024年7月のオランダの論文。「犯罪事件の2人の目撃者による証言」を356人の被験者に評価させた。2人のどちらかは嘘をついていると伝えても、多くの被験者は両者の証言を信じてしまった。しかし「正しく評価できれば5ユーロの追加報酬を約束する」と言われた場合にかぎり、被験者の判断の間違いは大幅に減った。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ejsp.3086
・2008年の米国の論文。1,200人の米国人に、政治関連の知識を問う質問をした。1つ正解するごとに1ドルがもらえると伝えただけで、正解率は11%上昇した。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1540-5907.2007.00306.x
・2015年の米国の論文。民主党員と共和党員に、過去の政権下での経済実績に関する一連の質問をした。もちろん彼らは自分の支持政党の実績を肯定的に見るため、両サイドの評価は大きく異なった。しかし正解するたびに17セントの報酬を提供したところ、党派間の回答の差は半分以下に縮まった。
https://nowpublishers.com/article/Details/QJPS-14074
つまり動機があれば(それが非常に少額の報酬でも)被験者たちは労力を費やして正しい評価をしようとする。しかし実際には、私たちが偽情報や誤情報を見抜いても、金銭的な報酬は得られない。日常生活にも直接的な影響はないだろう。
それなら、大統領選挙が近づいて「自分の住む国の未来が全く異なる可能性へ向かおうとしている差し迫った状況」なら、人々は情報の真偽を見極めようとするだろうか? Benton氏は最新の論文を紹介しながら「むしろ、その可能性は低くなる」と指摘している。
・MIT、ノースウェスタン大、コロンビア大の3人が発表した新しい論文。彼らの調査データによれば、政治ニュースの真実性を評価する際、選挙期間中には党派の一致(自分が支持している政党かどうか)の影響が大幅に増幅される。
https://www.nber.org/papers/w32802
・この研究は、2018年から2022年にかけて、合計10,094人分のYouGov調査データに基づいて行われた。参加者に真実の政治ニュースと偽の政治ニュースの両方を提示し、どちらが真実らしいニュースかを選ぶよう尋ねた(正解するごとに1ドルが支払われるという条件付きで)。
・その結果、選挙期間外では「自分の支持政党にとって有利なニュースのとき、真実だと選択する可能性」は4%高かった。しかし2020年の米国大統領選挙期間中の数日間、この割合は11%まで増加した。選挙直前には共和党支持者/民主党支持者ともにバイアスが強まるが、その影響は政治的右派で顕著だった。
つまり選挙への関心は逆効果ということになる。ここで疑問を持たれる向きもあるだろう。人々が「動機」によって正しい選択をしようとするのであれば、自分の住んでいる国の大統領選挙が近づいているとき、普段よりも真剣に情報を見極めようとするはずではないのか? それは、人々が何を利益と考えるか、何を動機づけにするかによるのだろう。Benton氏は以下のように記事を締めくくっている。
「たしかに大統領選挙は、国全体に大きな利害をもたらすものだ。しかし個人のエゴにとっては『自分のイデオロギー的な先入観を支持してくれるもの』に極めて高い利益がある。選挙戦が激化している時期、その傾向は特に強くなる。我々の脳は、自分サイドに関しては最善を信じ、他サイドに関しては最悪を信じたがる。この心理的傾向は、投票の重要性が最も高い瞬間において、正確性に対する追加的なインセンティブを超えてしまうようだ」