ファクトチェック団体とメディアをターゲットにした「オペレーション・オーバーロード」のアップデート

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オペレーション・オーバーロードはファクトチェックを利用した偽・誤情報拡散作戦

「オペレーション・オーバーロード(Operation Overload)」とは、2024年6月4日にフィンランドのCheck First社が暴露したロシアの作戦である。ファクトチェック団体と研究者に負荷をかけ、さらに誤・偽情報を拡散させる、というものだ。
簡単に内容をご紹介すると、自分たちで偽・誤情報を拡散し、そのあと、ファクトチェック団体、大手メディア、研究者に電子メールでコンタクトして、ファクトチェックの依頼をするというものだ。これにより、ファクトチェック関係者の負荷を増やし、さらにファクトチェックの結果が公開されることによってさらなる拡散を狙うものだ。レポートによれば作戦は成功していた。くわしくは日本語での紹介はこちらにある。

アップデートされた情報

2024年9月12日に公開された新しい報告書は、2024年1月から9月までに送られたメールを分析して作られた。

・偽・誤情報はフランスのオリンピックとアメリカ大統領選にフォーカスしていた。当初、オリンピックに関連した地政学的な偽・誤情報が多かったが、開催日が近づくにつれて具体的なイベントが中心となった。オリンピック後はアメリカ大統領選に中心が変わった。

・コンテンツが投稿されたのはロシア語のTelegramチャンネルが最も多く、メディアなどの企業のTikTokアカウントになりすました偽のTikTok動画を公開していた。著名な新聞や雑誌の表紙を模倣して偽の記事を表紙に載せたものなども多かった。コンテンツの多様化の傾向は、前回のレポートでも見られた戦略で、コンテンツの効果を増幅させることを目的としている。

・ほぼ全てのメールにTelegramのチャンネルへのリンクが一つ以上含まれていた。ロシアはTelegramを戦略的に活用しており、ここに引きこんで、欧米のレトリック、陰謀論、制度に対する国民の信頼を損なうことを目的としたナラティブなどの偽・誤情報の生態系に取り込むことを狙っている。

・前回のレポートでも報告されていたが、QRコードが偽・誤情報の拡散に利用されていた。

・245のメールアドレスがターゲットになっていた。このうち11%は個人が特定されたメールアドレスで、残りは一般的なコンタクト用アドレスだった(contact@メディア名等)。調査対象期間に送られたメールは推定71,000通。

・ターゲットは世界各国におよんでいるが、特にフランスの報道機関が狙われていた。複数の国や大陸にまたがるメディア報道に偽・誤情報を取り上げさせることで、一般の認識に影響を与えるための協調的な取り組みと分析している。

・現在のターゲットはアメリカ大統領選となっている。

オペレーション・オーバーロードが示すメディアの根本的な課題

Check Firstの報告は以上で終わっており、肝心のもっとも重要な問題に触れていない。メディアが偽・誤情報を扱う方法の根本的な誤りである。すでにさまざまな偽・誤情報の見直しで指摘されているように、偽・誤情報を標的にするのではなく、信用できる情報へのアクセスを確保すべきなのだ。なぜなら、情報の中で偽・誤情報が占める割合は低く、それを見つけて対処する手間とコストは、信用できる情報へのアクセスを確保するよりも大きい。また、偽・誤情報にフォーカスすることは警戒主義の台頭などマイナスの効果を生む可能性もある。
もっとも重要なのは偽・誤情報対策の多くは適切な方法で検証されていない。つまり役に経たない可能性がある。これに対して信用できる情報へのアクセスの確保は効果もさることながら、そもそも社会に基本的になければならないものだ。

オペレーション・オーバーロードが有効に機能しているのは、いまだに多くのメディアが偽・誤情報の扱い方を間違えているからなのだ。ロシアの作戦を暴くのは気持ちがいいと思うが、それもまたロシアの作戦のうちである可能性が高い。なぜなら暴いたところで、メディアは偽・誤情報の検証を止めることも、その結果を公開を止めることもできないのだから

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