子供の貧困が示す「かつて裕福だった国」の末路
格差は偽・誤情報やデジタル影響工作の格好の標的であり、多数の10代のTikTokテロリストを生み、混乱を巻き起こしている。あまり言及されることはないが、ISDが指摘したように偽・誤情報やデジタル影響工作は相手国の国内問題を標的にしている。それは格差や貧困に根ざすものであることは少なくないのだ。
英国で子供の貧困が深刻化している
数々の著書や論文で知られるオックスフォード大の地理学教授ダニー・ドーリングが、9月16日の「The Conversation」に、「現代の英国の子供たちは飢えに苦しんでおり、身長も低くなってきている」という内容のレポートを発表した。国連が同じ方法で測定している他の国々と比較したとき、英国は突出して深刻な事態に陥っているという。
ユニセフ・イノチェンティ研究所の報告によると、東欧州の多くの国では、たった7年間で子供の貧困率がはっきりと減少した。しかし英国では子供の貧困率が増加しており、特に最貧困層5分の1の世帯は、東欧州のほとんどの国における最貧困層5分の1の世帯よりも貧しいことが示された。
その状況は身長にも表れている。2010年以降、英国では5歳児の平均身長がはっきりと低下している。1980年初頭の英国が深刻な貧困に陥り、300万人以上が失業したときでさえ子供たちの身長は伸び続けていたのだが、2010年に初めて頭打ちとなり、それ以降は低下する一方だ。これは緊縮財政の時期と一致する。
ドーリングは最新の書籍「Seven children(七人の子供たち)」で、英国における世帯収入の格差と、その影響を掘り下げている。彼は英国に住む1,400万人の子供たちを、世帯収入に基づいて200万人ずつの7つのグループに分け、その各グループの中央にいる子供を選んだのち、それぞれの家庭で過去6年間に何が起きていたのかを調査した。
ドーリングによれば、この7グループのうち「最も裕福なグループの真ん中にいる子供」よりも裕福な子供の数は、英国全体の6%となる。このたった6%の子供たちは毎年、英国の全所得の3分の1を得て暮らす、途方もなく裕福な子供だ。彼は、このレポートを以下のように締めくくっている。
「2024年の英国は、かつて裕福だった国における『不平等性の高い暮らし』がどのようなものなのかを世界に示している。それはほんの一部の子供たちが、大多数の子供たちよりもはるかに多くの資源を消費していることを意味する」
「かつて裕福だった日本」はどうなるのか?
幸いなことにユニセフ・イノチェンティ研究所の報告では日本における子供の貧困は減少しており、むしろ模範的と評されている。しかし、経済状況の悪化と少子化、格差の拡大は加速しており、英国の二の舞を演じる可能性は高い。英国同様、日本も緊縮財政が大好きなのだ。
日本政府はAIによる偽・誤情報判定やファクトチェック、SNSプラットフォームへの規制など、先行している各国で有効性が疑問視され、見直しが始まっている対策をこれから始めようとしている。その予算を自国の脆弱性の改善に向ければ偽・誤情報対策などよりも高い確率で脆弱性の改善に結びつく。
偽・誤情報対策には総合的なアプローチが必要というのは各国政府や専門家のほぼ一致した意見だが、残念なことにそこに自国の社会問題を含めていることは少ない。EUでは見直しの風潮が高まりつつあるが、日本は用意した予算と組織が成果をあげられないまま、数年後(担当者の多くが部署を変わる2,3年後?)にやっと見直しが始まるのかもしれない。