20年間しぶとく生きのびたアルカイダのデジタル生態系をISDがレポート
ISDでアフリカ、中東、アジアを担当するエグゼクティブディレクターのMoustafa Ayad氏は2024年9月16日、「From message boards to TikTok: al-Qaeda’s two decades of internet exploitation」と題するレポートを公開した。この記事には、ISDの研究者たちがアルカイダのデジタル生態系を再調査した結果が示されている。
イスラム国のオンライン活動に注目が集まる影で生きのびたアルカイダ
「イスラム国の関連組織に注目し、彼らのデジタル活動を分析する動きが強まっている。その一方で、アルカイダは過去20年以上にわたって幅広くインターネットを濫用してきたにも関わらず、彼らの活動はほとんど注目されていない」と指摘するAyad氏は、ここまでのアルカイダの活動を以下のように説明した。
・彼らのオンライン活動は、9.11同時多発テロよりも前から続いている。彼らは削除や禁止の壁を乗り越えながら、絶えず再生と発明を繰り返し、独自のデジタル生態系を形成してきた。
・約16年前の全盛期、アルカイダは5,600のウェブサイトを運営し、毎年900の新しいサイト、ブログ、フォーラムを築いていた。アルカイダの実績を削除し、その影響力を落とすために数百万ドルが費やされたこともあってか、彼らの全盛期は遠い昔の話となった。
・しかしアルカイダのオンライン活動は、イスラム国の影に隠れるようにして現在も生き残り、新しいソーシャルメディアのプラットフォームにも台頭している。この流れは、テロリストによるインターネットの悪用について、よい教訓を提供している。つまり彼らは「復活し続ける」のだ。
この記事の中で、Ayad氏は何度も「イスラム国が注目を浴びている一方で」という表現を用いながらアルカイダの活動を説明しているが、それは単に話題性や影響力を比較しているのではない。「オンラインのテロ活動対策」がイスラム国に注力される中、アルカイダへの対策が手薄になっており、アルカイダが監視の目を逃れてきたという点も指摘している。
たとえば欧州警察機構(ユーロポール)は2024年6月、スペイン、米国、フィンランド、オランダ、ドイツの司法省との共同作戦で、イスラム国の主要なウェブサイトを閉鎖した。この迅速かつ効果的な作戦は、イスラム国の活動に決定的な打撃を与えた。イスラム国の支持者たちは、ダークウェブにミラーサイトを復活させようとしたが、彼らの試みは阻まれ続けており、現在も復活できていない。
(ちなみに、その復活を阻止しているのはユーロポールの共同作戦だけではない。イスラム国は現在「テロリストのウェブサイトを閉鎖するハッキング集団」からも標的とされている)
一方で、長い間オンラインでアルカイダの存在感を示してきたアル・シャバブ、アラビア半島アルカイダ(AQAP)、アルカイダ・アーカイブ、その他のアルカイダフォーラムの主要となるウェブサイトは、今回の政府による対策の影響を受けなかった。彼らは「Chirpwire」という即席のサイトを利用して、アルカイダの支援組織や販売窓口を複数の言語でホストしている。このプラットフォームは更新が遅く、運営上の問題が多いものの、アルカイダ関連のプロパガンダの供給源であり続けている。
影響力は低下するものの、生きのび続けるアルカイダのオンライン活動
そしてアルカイダは新たなソーシャルメディアプラットフォームを利用し、支持者によるプロパガンダ活動を続けている。彼らはFacebookやTelegramなどでコンテンツを配信し、攻撃を呼びかける「インスパイア・ツイート」を行っている。アルカイダは、これらの活動を通してオンラインでの存在感を保ってきた。
しかし影響力そのものは低下しているようだ。少なくともイスラム国には大きく差をつけられている。たとえばイスラム国の主なオンラインフォーラムには、毎月平均1万9000人以上のユニークビジターがいるのに対し、アルカイダの主なフォーラムには、毎月1800人以上のユニークビジターがいるにすぎない。またイスラム国のウェブサイトRaudは、ユーロポールの共同作戦でテイクダウンされる前、月平均83,300人以上のユニークビジターを記録していた。一方、同じ期間のアル・シャバブのウェブサイトのユニークビジター数は月平均941人という低さだった。
そんなアルカイダのオンライン活動について、Raud氏は以下のように説明している。
・アルカイダはオンラインでの存在感をより不動のものに保ち、トップダウン方式でウェブを使い続けるという団塊世代のような粘り強さを見せている。一方、イスラム国はオンライン技術の早期採用者としての地位を確立してきた。
・さまざまなグループがFacebook、X、TikTok、YouTube、そしてTelegram、Discord、RocketChat、Threema、Elementなどのメッセージングアプリといったプラットフォームに広がっている。アルカイダもこれらのプラットフォームで同様に拡散しており、イスラム国やその他のさまざまなグループと同じ「サラフィ・ジハード主義」の領域で、注目とクリックを奪い合っている。
・政府やプラットフォームは、海外の既存のテロ組織が、直接的な存在、代理ブランド、あるいは彼らのコンテンツを喜ぶ支援コミュニティを通じて、どのようにプラットフォーム上で足場を固めてきたのかを考慮せざるを得なくなった。
・現在ISDが進めている分析では、アルカイダの支持者たちがFacebook上でTelegramチャネルとまったく同じコンテンツを大量に投稿するために自動化機能を活用していること、5,600人以上のフォロワーを持つアルカイダのインフルエンサー専用のページが存在していることなど、アルカイダがオンラインで活動を続けていることが示された。
・またISDは2022年、ソマリアを拠点とするアルカイダの系列組織であるアル・シャバブが、Facebook上で(基本的に)野放しの状態のままブランドコンテンツを宣伝し、東アフリカのさまざまな言語でコンテンツを配信していることを発見した。
そしてRaud氏は、今後の展望について以下のように記している。
・過去20年間、アルカイダに対するオフラインでの戦略は、標的暗殺や逮捕などを通して成功をおさめてきた。今後は訓練キャンプの再開やサヘル地域へのより強力なアプローチで、こうした勝利が試されることになるだろう。
・アルカイダのオンラインでの存在感も、同様の軌跡をたどっている。広範囲に広がっていた勢力の拡大は、敵対勢力によるデジタル領域への継続的な注力により減速し、結果としてオンラインでの活動は大幅に効率が低下した。
・しかしオフラインでの作戦とは異なり、アルカイダは新しいプラットフォームやメッセージングアプリを利用している。つまり(オンラインにおける)「封じ込め戦略」の限界が試されている。
・アルカイダのオンラインでの影響力を阻止する戦略的な取り組みでは、「彼らをさらに混乱させ、最終的に弱体化させる新たな手段」を見つける必要性が問われている。アルカイダにとってインターネットが肥沃な領域であることは疑いの余地がないが、今後もそうであるとは限らない。彼らの「オープンウェブにおける約20年間の存在」から学べることがあるとすれば、の話だが。