情報環境における最大の脅威はSNSプラットフォームのオーナー
55か国から250人以上の専門家が参加する情報環境の国際コンソーシアム「IPIE」(※1)の報告が、9月24日のThe Guardianに掲載された。その発表によれば、世界の情報環境における最大の脅威は「ソーシャルメディアの所有者たち」であるという。
IPIEの共同創設者フィリップ・ハワード教授は、いま世界の情報環境が「重大な岐路」に立たされていると述べており、その脅威のトップとして挙げられたソーシャルメディアのプラットフォームの所有者については、次のように語っている。
「コンテンツの配信や規制の方針に対する彼らの支配力は、情報のクオリティや整合性に重大な影響を及ぼしている。このように存在する『制御されない力』は、世界の情報環境の健全さに深刻なリスクをもたらす」
このIPIEの発表は、社会科学、人文科学、コンピュータサイエンスなどの分野の412人の学術研究者による回答に基づいた調査結果だ。報告書には特定のプラットフォームの名が記されていないが、ハワード教授はイーロン・マスクとXに関して「マスク自身によるポストの過剰な宣伝」に言及し、そこに懸念が寄せられていると述べた。またByteDance社が所有しているTikTokに関しても、中国政府の圧力を受けやすいのではないかとの懸念が上がっていることを付け加えている。
「ソーシャルメディアの所有者」に続く情報環境の脅威は、「国内の政府、および海外の政府」で、そのあとに「政治家」が続いた。
これまで多くの政治家が、政治的な利益を得るために陰謀論や誤情報を「道具化(instrumentalised)」してきた結果、信頼されていた情報源や民主主義制度に対する信頼が損なわれるという悪影響が波及した、とIPIEの報告書は警告している。
今回の調査で回答した専門家のうち、今後の情報環境が「悪化する」と予想したのは、およそ3分の2だった。前回の調査では半数強だったので、その割合は増えている。
また「AIが生成した動画、音声、画像、テキストが情報環境に悪影響を及ぼしている」と回答した専門家もほぼ3分の2。それらが誤情報の問題を拡大していると「確信している」と答えたのも同じ割合だった。AI関連の懸念事項として最も多かったのは「AI生成の動画」、次いで「AI生成の音声」だった。
この調査では、先進国の専門家よりも開発途上国の専門家のほうが生成AIの負の影響を懸念していることが分かった。また回答者の半数以上は、AIに「ポジティブな側面」も見出しており、「ミスリードを誘うコンテンツの発見」「ジャーナリストによる膨大なデータ選別の支援」などの利益をAIがもたらす可能性に「中程度に期待している」と答えた。
記事にはとりあげられていなかったが、健全な情報環境の主たる特徴として、もっとも多かったのが「正確な情報の入手可能性」(65%)、次いで意見の多様性(42%)、メディア所有の多様性(33%)となっている。また、情報環境を改善する方法として「自由で独立したメディア」、「デジタルメディアリテラシー」、「ファクトチェック」、「コンテンツのラベル付け」などをあげていた。また、この調査結果は単純な実数を集計しているだけだが、アンケートの回答者の3分1以上は米国に集中しており、米国の研究者の傾向が強く出ていると予想できる。皮相的な回答が多いわけだと納得する人も多いだろう。
アンケートのデータはGitHubで入手できるので、興味ある方は米国とそれ以外あるいは、グローバルノースとサウスでの比較をしてみるのもよいと思う。どうでもいいことだが、報告書のGitHubのリンクには改行が入っていてクリックすると404になる。
※1
IPIE(The International Panel on the Information Environment/直訳:情報環境に関する国際パネル)は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)をモデルとして活動している。この「情報環境」という用語についてハワード教授は、大勢の人々にとっての「日々のニュース摂取」を支える組織、コンテンツ、人々を指した言葉だと説明している。