米国政治シーン 4年間にわたる偽・誤情報対策抑圧作戦の全貌

2024年10月9日、Tech Policy Pressは、「The Information Laundering CycleHow A Coordinated Effort Weaponized the American Political System In Favor of Disinformation」と題するレポートを公開した。何度かニュースでも取り上げたが、米国では偽・誤情報対策に関わる研究者などへの激しいバッシングが続いている。このレポートは、その背景にある協調した政治的勢力の活動を暴いたものとなっている。
この動きは、2020年11月の大統領選直前の10月米下院司法委員会でジム・ジョーダンがビッグテックが保守の言論を検閲していると主張したことから始まった。2021年から2022年にかけてトランプ支持者たちはAmerica First Legal (AFL)などの組織を作り、多額の資金を集めて、偽・誤情報研究を抑圧するために活動を開始した。この時、攻撃対象はビッグテックから偽・誤情報の研究者に移った。
2022年8月、タッカー・カールソンなどの保守系の著名人がこぞって政府が検閲を行っていると主張しはじめた。トランプが大統領をしていた時に国務省高官だったマイク・ベンツはFoundation for Freedom Online (FFO)というブログを始める。
共和党が下院の支配権を得った後の中間選挙では、検閲問題は全国的な話題となった。この頃に公開された「Twitter Files」が公開され、さらに検閲に関する話題は盛り上がった。米全土の偽・誤情報の研究機関に対する圧力が高まった。
2024年になると、米下院を中心として司法委員会などが偽・誤情報関連の研究を抑圧している。
このレポートはこうした一連の出来事の人、組織、金の流れを情報ロンダリングとして整理してまとめている。情報ロンダリングは5段階ある。
1 検閲があるとする、検証されていない主張を行う
2 検閲を行っている(未検証)機関に手紙や文書などの開示請求を行う
3 検閲行為があることを保守系メディアや関係団体などがさらに主張し、開示請求を始めとする嫌がらせを増加させる
4 より圧力をかけるために召喚状を発行し、証言を要請する
5 関係団体の法律事務所が、前4つのステップで追求された問題について、訴訟を起こす
根拠のない攻撃だったものを波状的に繰り返し、広げてゆき、最後には法廷闘争にまで持ち込むことをこのレポートでは情報ロンダリングと呼んでいる。
ここまで読んでお気づきになった方も多いと思う。こうした活動の一方で米国はTikTokには厳しく対処している。情報ロンダリングはきわめて党派的な利益に動機づけられていることがわかる。そもそも2021年に攻撃先がビッグテックから研究者に移ったのは、偽・誤情報の研究者を後退させることが、党派的な目的とビッグテックの事業的な利益につながることがわかって協力関係を持てるようになったからのように見える。
米国で起きたことは他の国でも起こりうる。ただし、偽・誤情報に関する民間の研究機関や研究者がほとんどいない日本では起こりようがなさそうだ。