不可視化された影響工作大国インド カナダとの間で緊張高まる

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世界の民主主義国では報道されることも、政府機関から批判されることもほとんどないが、インドは世界有数の影響工作大国である。報道も批判もされない理由は後で述べるが、おそらく世界で唯一カナダは、カナダ国内でインドのエージェントがカナダ国籍の人物を殺害したと発表して以来、はっきりとインドの影響工作および内政干渉について批判をし続けている

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インドのカナダに対する干渉

カナダ政府機関の発表によると、インドは過去2回の選挙に干渉し、保守系の議員に影響を及ぼし、カナダ国内の暴力的犯罪に関与してきた。
たとえば2024年6月に公開されたカナダのNSICOP( National Security and Intelligence Committee of Parliamentarians)の外国からの干渉に関するレポートではインドはロシアを抜いて中国に次ぐ脅威アクターとなっている。特定の国会議員をターゲットにしたネット上での攻撃を行う一方で、一部の国会議員を取り込んで機密情報を入手したり、プロキシを使ってジャーナリストやメディアに影響を与えたり、選挙候補者に資金提供を行うなど広範で悪質な活動がこのレポートで暴かれている。つまり、インドは長期間にわたり、カナダに対してさまざまな形で干渉を行い、時にはカナダ国内でカナダ人を殺害してきたことになる。レポートの最後には、中国とインドを最大の脅威アクターと指摘していた。

今回、カナダとインドの緊張は高まったのは2014年10月14日にカナダのトルドー首相がインドの6人の外交官を追放を発表した後、インドを批判する発言を行った。これに対してインドはすぐにインド国内のカナダ外交官に退去を命じた。

ここで注意しなければならないのは、カナダが特別なわけではないことだ。インドは世界各国に対して、同様の干渉を行っている可能性がきわめて高い。日本だけでなく、世界の多くでこのことが報道されず、政府も語らないのには理由がある。

インドは民主主義国の同朋でなければ困る

カナダ政府が指摘した実態から言えば、インドは中国、ロシアと同列にならぶ民主主義への脅威ということになる。しかし、欧米および日本からすると。地政学的な理由でそうなっては困る。インドは民主主義陣営に属する仲間でないとインド太平洋が困ったことになる。そのため多くの国の政府はできるだけインドを批判しないように注意を払ってきたようだ

しかし、実態としてインドはさまざまな影響工作を実行している。たとえばNGOのEU DisinfoLabは2019年と2020年に暴いた大規模なネット世論操作作戦、「Indian Chronicle」がある。くわしくは、日本でも1年前にこちらこちらで紹介されている。下記は抜粋。

2019年には65カ国以上で265の偽メディアが明らかにされ、2020年ではメディアは750、116カ国と大幅に増加した。単なる偽情報を流布するだけではなく、実在あるいはすでに死亡している著名人を参加者リストに加えたり、実際にこれらのメディアに寄稿しているEU議員も存在していた。EU DisinfoLabはこの作戦を「Indian Chronicle」と名付けた。

この活動は国連とEUをターゲットにしていた。国連に対しては、2005年8月国連人権委員会、その後国連人権理事会が発足するとそちらを軸足とし、少なくとも10の国連公認のNGOがインドの企業グループが新インド、反パキスタン、反中国活動を繰り広げている。国連の議場で発言したり、イベントを行ったりしていたのだ。

EUに対しては非公式グループを作り、EU議会内や外部で会見やイベントを実施した。また、EU Chronicleというメディアを作り、11人のEU議員から論説の寄稿を受けた。

こうした一連の活動をインド国内および世界に拡散したのはインドの通信社ANI(Asian News International)だった。ANIはまた、これらの偽メディアへのニュース提供もしていた。

注目すべきは、EU DisinfoLabの調査結果はメディアに取り上げられたものの、EUおよび各国の行政や司法の動きが鈍かったことだ。

メディアが取り上げない理由

政府がインドを批判しない理由はわかったが、メディアはなぜとりあげないのだろう。メディアおよび民間企業は市場としてのインドへのアクセスを失うリスクを冒したくなく、さらに暴力的な報復を恐れている。信じられないと思うが、中国やロシアのデジタル影響工作を暴き、テイクダウンしてきたMetaは、その脅威レポートで自社の社員を深刻なリスクにさらす可能性がある場合は、テイクダウンしてもレポートに記載しないと書いた。その際、脅威の主体については書かれていなかったが、のちにワシントンポストの暴露でインド政府であることがわかった。先にあげたこちらには、ワシントンポストの暴露を含め、数少ないインドの影響工作についての記事のリストが掲載されている。
中国やロシアからの影響工作についてMetaがこうした理由でレポートに記載しなかったことはない。インドは中国やロシア以上に手段を選ばない危険な相手だということだ。

カナダとインドの緊張の高まりについて、他の民主主義国は沈黙している。もしかすると、これがこの後インドに対する対応の暗黙のスタンダードになるかもしれないと考えると非常に危険だ。
なお、公平を期するために補足しておくと、カナダは現在選挙シーズンであり、インドはトルドーが所属している政党以外を政党を支援している。このタイミングでのインド批判は選挙への影響を考えて行われた可能性もある。

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