米国の有権者は、AIよりも「嘘つきの政治家」を恐れている

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これまでにも取り上げてきたとおり、誤情報や偽情報に携わる専門家たちの多くは、AIで生成された画像や国外干渉(たとえばロシアによる偽ニュースサイトの活動など)の影響に警鐘を鳴らしてきた。しかし米国の有権者は、それらの脅威よりも「政治家による嘘の拡散」のほうを懸念しているようだ。

先週Axiosが発表したアンケート調査によると、「誤情報に関して最も懸念する事項」を尋ねられた米国人の半数以上(51%)が「政治家による虚偽の拡散」を心配していた。一方で「誤情報の拡散を阻止できないソーシャルメディア企業」「人々を欺くために利用されるAI」は35%、「外国政府による誤情報の拡散」は30%という結果になった。

つまり彼らは「AI技術の躍進や国外干渉よりも、嘘をつく国内の政治家のほうが怖い」と考えている。家宅侵入を試みる強盗より、手癖の悪い身内のほうが恐ろしいというような話だ。これまで米国の政治家たちが流布してきたデマや誤情報の頻度、それらの影響を考えるなら、それは決して素人の杞憂ではなく、むしろ身近な問題を正しく認識した意見だと言えるかもしれない。

ニューヨーク大学のソーシャルメディア・政治センターの共同ディレクターJoshua Tuckerも、次のように語っている。
「(将来の)我々が2024年について事後検証を行ったら、最も拡散した誤情報は『政治家から発信されたもの、あるいは政治家によって増幅されたもの』になるだろう」

しかし米国の有権者たちが、これほどまでに政治家の発言への不信を募らせるようになった背景には、やはりAIの影響が大いにあるとAFPは指摘している。

つまりAI生成の偽コンテンツが溢れかえった結果、オンラインで流れる情報の信頼性が低下し、従来どおりの報道機関によるニュースも疑うような「深い疑念の時代」が到来した。そして政治家たちは、真っ当なコンテンツ(事実を伝えているニュースなど)の信憑性に疑問を投げかけて偽情報を拡散する機会が増えた
(このような戦術は「嘘つきの利益(liar’s dividend)」と呼ばれている)

また彼らは意図的に虚偽の情報を拡散しても、反証されたときに「それはAIが勝手に生成したものだ、私は本当だと信じてシェアしただけ」と言うことで責任を逃れられるようになった。なにしろ米国には、政治家による虚偽情報の拡散を止めるための法的な手段がほとんど存在しないので、「拡散したもの勝ち」になってしまう。

先述のAxiosの調査では、有権者の80%が「誤情報が選挙結果に大きな影響を与える可能性がある」と考えており、また回答者の半数以上が「何が真実なのかわからないので」政治から距離を置いていると答えている。また民主党員、共和党員、無所属層のいずれも「政治家による誤情報の拡散」を懸念していた。

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