モルドバでなにが起きているのか?

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モルドバは、およそ1,200キロにわたってウクライナと国境を接する人口250万人くらいの国であり、ウクライナへの物資の補給にとって重要な役割を果たしている。ロシアが占領している黒海に面したウクライナにも近い場所にある。以前からロシアはさまざまな干渉を行ってきたが、ウクライナへの軍事侵攻以降、それが激しくなった。

そのモルドバで、2024年10月20日世界が注目する中、2つの投票が行われた。ひとつは大統領選。もうひとつはEU加盟を憲法に盛り込むための国民投票である。現在のモルドバの大統領は親EUでリベラルであり、世論調査の結果では国民の多くはEU加盟を望んでいる。もちろん、ロシアとしてはそのような事態は避けたい。そのためにモルドバの国家規模を考えると常識外れの規模の工作を仕掛けていた。

モルドバには、いくつかの深刻な国内問題がある。ルーマニア語話者とロシア語話者がおり、ロシア正教信徒とルーマニア正教信徒がいたり、分離独立を宣言している親露の沿ドニエストル共和国があったりと複雑に絡み合っている。そして、汚職や買収も多い。ロシアとEUの間を揺れ動いていたが、現大統領のサンドゥになってから、親EU路線となっていた。チャタムハウスのレジリエンス・バロメーター調査には、安全保障、説明責任のある統治、社会の結束に課題があると指摘されている。
10月20日の選挙で親EUのサンドゥを落選させ、EU加盟の国民投票の結果に反対させることができれば、ロシアにとって好都合な状況が生まれる。そのために、2019年にモルドバを脱したオリガルヒを利用して日本円にして20億円以上を13万人のモルドバ人にばらまいた。一部では日本円にして150億円を超える資金が投入されたという当局者もいる
モルドバ当局も手をこまねいていたわけではなく、オリガルヒの関係者を告訴し、つながりのある6つのテレビ局のライセンスを取り上げた。ロシアはモルドバ当局のこうした対処について「非民主的で権威主義的」と非難している。
買収などの活動と並行してTelegram上でモルドバ人を雇って偽・誤情報を拡散した。EU反対票を増やすごとに最大4万円の報酬を与えたり、チャットボットを利用したりしている。
こうした一連のロシア影響工作は、表向きは否定しているものの、誰の目にも明らかであり(人口250万人の13万人は約5%、有権者に限ればさらに割合は多い)、それがさらにモルドバの社会に混乱と分断を引き起こしている。ロシアはモルドバの経済、政治、サイバー空間などを活用したハイブリッドな工作を進めており、暴露されればそれがさらに効果を生むようになっている。
わかっているのに止めることができない状況は、ウクライナ、ガザなどでも起きており、民主主義の脆弱性をさらしている。今回、大統領は11月3日に決選投票が行われることになり、EU加盟は僅差で賛成派が勝利した。しかし、ジョージアの例を見るまでもなく、これは1回の選挙で決着がつく問題ではなく、長く続く戦いなのだ。わかっていて止められない状況を、止められる状態にしない限り、長い戦いを耐えることは難しい。
直接、間接的に各地で起きている問題はつながっている。なぜなら民主主義側の主要アクターは常にアメリカとEUだからだ。そして、アメリカとEUの内部もまた民主主義の危機に直面している。

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