オンライン、オフラインで高まるアメリカの暴力的過激派
アメリカではオンライン上の暴力的で過激な言動とリアルがシームレスにつながっており、相互に影響を与えながら拡大してきた。その大きな転換点となったのは2014年のバンカービルの戦いで、この時、ならず者一家の呼びかけで集まった民兵たちは州と連邦職員を追い返し、法廷闘争でも勝利する結果となった(くわしくはこちら)。2021年にアメリカ連邦議事堂襲撃に参加した者の多くにとって、この事件は個人が政府に暴力で勝利した輝かしい伝説だった。
オフライン活動の状況
今回のアメリカ大統領選はどちらが勝っても暴動が起きると言われているが、すでに不穏な動きが出ている。ACLEDの8月と9月のアメリカに関するレポートによると、2024年8月19日から22日にかけて、民主党はシカゴで民主党全国大会(DNC)をおこなったが、この期間中シカゴでのデモは前月の倍となった。テーマは、民主党の主張であるリプロダクティブ・ライツ、労働者の権利、LGBTQ+の権利の保護が多かったが、それ以外にも移民受け入れを支持もあった。これらのテーマは民主党と共和党で対立しているものだ。
2024年9月10日の大統領候補の討論会の後で反トランプのデモが増加し、アメリカ連邦議事堂襲撃以後では最高水準の月となった。デモの3分の1以上はハイチ系住民によるもので、悪質なデマがきっかけとなっている。また、ハリス支持のデモも最高記録を更新した。
討論会の5日後にはトランプ暗殺未遂事件が起きたが、トランプ支持は一時的に急増したものの9月全体では多くはなかった。たとえば7月に比べると9月は3分の1に留まった。
ハリス支持が増加したとはいえ、トランプ支持と、反トランプのデモの下図はほぼ同数となっている。
オンラインではTelegramとXでの動きが顕著
一方、ISDはオンライン上での暴力的過激派の動きをモニターした結果を発表している。それによるとアカウントや投稿がもっとも多かったのはTelegramで圧倒的、エンゲージメントが多かったのはTelegramとXとなっている。
カテゴリーとして多かったのは、REMVE(Racially and Ethnically Movated Violent Extremist、人種または民族的動機による暴力的過激主義、35%)と、AGAAVE(An-Government & An-Authority Violent Extremist、反政府または反権力による暴力的過激主義、34%)だった。AGAAVEの多くはQAnonと重複している。
扱われているテーマは、標的を絞ったヘイトが51%ともっとも多く、次いで政府や政策についてが20%だった。
これらのアカウントの地域別分布は前項のACLEDがモニターしたリアルでの活動とほぼ一致しており、9月10日大統領選後にハイチ移民について話題が増加したこともリアルの活動と連動している。
オンラインとオフラインが連動する暴力的過激派
アメリカではオフラインのイベント(大統領候補討論やトランプの暗殺未遂事件など)が、オンラインのヘイト暴力的過激派(REMVE)やオンラインの反体制陰謀論等暴力的過激派(REMVE)に影響し、オフラインの活動を駆り立てている。悪いエコサイクルに入っているようだ。
さらに悪いことに、こうした活動と悪しきエコサイクルはヨーロッパなどに輸出されている。QAnonがドイツなどヨーロッパ各地に広がっていることは有名だ。そして、社会を混乱させる事件を起こしている。
中国やロシアは意図的に自国以外の国に分断と混乱を輸出しようとしているが、アメリカは自覚なしに分断と混乱を輸出し、その一方で民主主義の名の下に中国やロシアを糾弾している。その影響で痛い目を見ている国からすれば、どちらも困った相手であることに変わりはなく、自覚がないので表だって批判しにくい。