「情報対立」からロシアの戦略を読み解いたレポート

Recorded Futureが2024年10月24日に公開した「Russian Strategic Information Attack for Catastrophic Effect」は、ロシアの古典的な概念「情報対立(information confrontation)」からロシアのサイバー空間の展開を読み解く野心的なレポートだ。情報対立は、反射統制理論と同じくロシア独自の概念だが、日本では反射統制理論以上に知られていない(そもそも反射統制理論もほとんど知られていないっぽい)。
このレポートでは、情報対立の概念を援用してロシアの戦略的情報攻撃(Strategic Information Attack、SIA)は敵対国の最重要インフラに戦略レベルの損害を与えることを目的としていると整理している。心理的効果を狙う影響工作と、サイバー攻撃の両方を用いて行うことを想定している。なお、SIAは一般的な用語として用いられてはいない。
このレポートでもっとも重要な点は、現在までに観測されたロシアの戦略的情報攻撃SIAは低い強度のものであった、と主張しているところだ。つまり、「プーチンはまだ本気を出したことはない」と言っている。これまでのサイバー攻撃やデジタル影響工作は、あくまで平時の低強度のものに過ぎないのだ。
とはいえ、レポートの最初の方には、ロシアのSIAの内容についてエビデンスとなるようなものはないと明言している。したがって、このレポートはRecorded Future、より具体的に言えば執筆した Insikt グループの考えということを理解しておく必要がある。
紛争の規模を5段階に分けており、SIAは5段階目のLarge-Scale War=世界大戦のために用意されているものだという。
- Armed Conflict
- “Special Military Operation“
- Local War
- Regional war
- Large-Scale War
レポートでは、これまでウクライナに対しても他の国に対してもSIAは行われたことはない、と分析している。
・SIAの影響工作
敵対国の国内を分断し、不安定化させ、政権交代を誘導することもある。たとえば対米では米国のバルカン化や内戦を引き起こす可能性に言及している。
・SIAのサイバー攻撃
SIAのサイバー攻撃の対象は、戦略的に重要なインフラをターゲットとしており、それ以下の段階においてもターゲットにしてきたものと同じだ。違うのは5段階目以外では一時的な機能の中断を狙っていたのに対し、SIAでは永続的な機能停止を狙っていることだ。
注意しなければならないのは、ロシアの紛争エスカレーション・マネジメント(Conflict Escalation Management)だ。これは紛争を緩和させるために、エスカレーションを行うことである。このレポートでは例としてアメリカの日本に対する原子爆弾の使用をあげている。相手を屈服させるレベルのエスカレーションを行い、有利な和平交渉に持ち込むのだ。
このレポートは、ロシアは強力無比、深刻な破壊力を持つ戦略的情報攻撃能力を有しており、大規模な戦争が起きた際には、それらを用いたエスカレーションを行い、その後和平交渉を有利に行うと指摘している。ただし、強力無比、深刻な破壊力を持つ戦略的情報攻撃能力の具体的な内容はわかっていない。あくまで「情報対立」の概念から過去のロシアの活動を分析した結果である。