米選挙に干渉するStorm-1516とR-FBIの関係

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CNNは2024年10月30日、米国の選挙を狙ったロシアの偽情報ネットワークに関する調査報告の記事を掲載した。
クレムソン大学の研究者とCNNが共同で行った調査によると、ロシアの偽情報ネットワーク「Storm-1516」は、故エフゲニー・プリゴジンが2021年に設立した「弾圧に対する闘争基金」(以下R-FBI)」と密接な関係にあることが判明したという。ここではいくつかの補足を加えながら、CNNによる報告の内容をお伝えしたい。

目次

R-FBIとは?

エフゲニー・プリゴジンとは、2023年6月にワグネルの反乱を起こし、8月に飛行機事故で死亡したことで世界的に知られた、あの「民間軍事会社ワグネルグループの創設者プリゴジン」である。
彼の設立したR-FBIは当初、主にウクライナとの戦争に関する主張を拡散していた。しかしロシアが2024年の米国選挙に標的を移し、多面的な偽情報の拡散を行うようになると、そちらの活動の中心的な役割を果たすようになった。

ちなみにR-FBIはNPOの「人権団体」を自称している。この団体は、マネーロンダリングで米国の刑務所に服役したロシア人ミラ・テラダの指揮のもと、現在もロシアのプロパガンダに沿ったナラティブを拡散している。
R-FBIとStorm-1516は共に、現在ロシアが行っている多様な偽情報活動の一部を担っており、その多くは重複しているという。彼らは欧米や海外のソーシャルメディアのインフルエンサーを利用し、西側諸国でプロパガンダや偽情報を広めている。

Storm-1516とR-FBIの「密接な関係」を結んだIRA

クレムソン大学の研究者たちは、Storm-1516とR-FBIの間には「歴史的」「技術的」「組織的」な繋がりがあると指摘している。彼らの説明によれば、Storm-1516とR-FBIは「プリゴジンを通し、Internet Research Agency(以下IRA)によって橋渡しされて」いるという。
IRAはすでに解散しているが、以前「2016年の米国選挙に干渉した組織」と米国政府が名指しした悪名高い組織で、当時はトロールファーム、あるいはトロールファクトリーなどとも表現された。
なお、IRAはワグネル社長時代のプリゴジンに設立されている。これについては彼自身が「単に資金を提供しただけではない」と説明している。プリゴジンによれば、IRAは西側諸国による反ロシアのプロパガンダに対抗するために「私が発明し、作成し、長い間管理してきたもの」であるという。

このIRAとStorm-1516の繋がりは、以前にも指摘されていた。今年5月には、Microsoftの脅威分析センターが「Storm-1516の拡散する偽情報はIRAの戦術、技術、手順など多くの点で共通している」ため、「この団体には、クレムリンと提携して2016年の選挙に影響を与えようとしたトロールファーム『IRA』の退役軍人が含まれている可能性が高い」と指摘している。

Storm-1516の昨今の活動内容

Storm-1516は、主にソーシャルメディアでフェイクビデオや偽情報を制作し、拡散している。クレムソン大学とCNNの分析によると、Storm-1516とR-FBIのメンバーは2023年8月以降、少なくとも54の偽情報のナラティブをオンラインで拡散してきた。

この数週間のStorm-1516は、カマラ・ハリスとティム・ウォルツ氏を標的にした「作り話のでっちあげ」を行っている。たとえばハリスがサンフランシスコでひき逃げ事件を起こした、あるいはザンビアで絶滅危惧種のサイを密猟したという捏造情報、あるいはウォルツが学生に性暴力を働いたという根拠のない主張などだ。
この偽情報の拡散作戦は、まもなく行われる米国の選挙を前に勢いを増している。このロシア政府によって支援された大規模な活動が、米国の有権者に影響を与え、ロシアにとって好ましいトランプを優勢にするのではないかと米国の現政権の情報機関は危惧している。

Storm-1516の「低品質さ」

以前の記事「マイクロソフトのロシア、イラン、中国による米への影響工作報告」でもお伝えしたとおり、Storm-1516の強さはコンテンツの質ではない。ひたすら衝撃的で注目を集めやすい(時として突拍子もない)話題を捏造し、絶えずコンテンツを大量生産しつづける能力にある。したがって彼らが拡散する動画のクオリティは決して高くない。
たとえば動画の場合、顔のぼやけ、不自然な動き、口の動きと音声が合っていないなどの理由で、合成であることを見抜かれやすい。米カリフォルニア大のデジタルフォレンジックの専門家Hany Farid教授は以前、Storm-1516が作成した動画の一部について「衝撃的にひどい(shockingly bad)」と評価したこともある
しかしFarid教授は、次のようにもコメントした。「もっと質の高い動画を作れるだろうか? もちろんだ。しかしこれらの(低品質の)動画は効果的である。人々に『すべてを疑わせるように仕向ける』ために、ハリウッド級のフェイクを作る必要はない」

つまり彼らは「そもそも偽情報に信憑性を持たせようとすらしていない」のかもしれない。たとえば先述の「ハリスのザンビアでの密猟」の動画は、あらゆる点で劣悪だ。この動画にはザンビアの国立公園の従業員を自称するアフリカ系の男性が出てきて、「ハリスという名前の米国人の女性政治家が、絶滅危惧種のクロサイを撃った。この事件は隠蔽された」と主張する内容なのだが、同国立公園は「この男は従業員ではない」と即座に否定しており、また動画の男の顔にはデジタル編集の痕跡があることが確認された。

これほど分かりやすく、多くの人が真面目に取り合わないような低品質の偽情報であっても、当たり前のように目にする日々が続くうち、有権者は次第に「もはや何も信じられない」と考えるようになるだろう。Storm-1516の狙いは「トランプが有利になるように仕向けること」だけではない。むしろ「有権者が、真っ当な報道に対して懐疑的になるように仕向けること」に特化した活動なのかもしれない

「あの男」の暗躍

この記事の中でCNNは、ロシア発の偽情報の拡散に関与した一人の米国人について掘り下げている。元フロリダ州の副保安官で、盗聴と恐喝の重罪で刑事告発を受け、ロシアに亡命したジョン・マーク・ドゥーガン(John Mark Dougan)だ。以前の記事「トランプ暗殺についてのオバマのディープフェイク音声が拡散」にも登場した人物である。

先述の「クレムソン大とCNNが分析した、少なくとも54の偽情報のナラティブ」のすべてに、Douganとロシアが支援するフェイクニュースウェブサイトのネットワークが関わっているという。つまりDouganは、彼が運営しているフェイクニュースメディアで、(大量の陰謀論と共に)Storm-1516の偽情報を拡散している。

このネットワークで今月初めに拡散された最新の記事のひとつは、ウォルツの中傷を試みる内容(ミネソタ州で教師をしていたウォルツがカザフスタンからの留学生に性的暴行を加えたという根拠のない主張)は、ロシアの工作員が捏造したものだと米国諜報機関が特定している。また米国務省は、当時ミネソタ州の学校にカザフスタンの交換留学生がいた記録はないと発表した。

さらにCNNの記事は、DouganとR-FBI代表のミラ・テラダとの繋がりなどについても詳説しているが、ここでは割愛する。ちなみに欧州の諜報機関の高官はドゥーガンについて「大きな歯車の中の小さな歯車に過ぎない」とCNNの取材に対して述べており、「彼はStorm-1516の活動に関わって報酬を受け取っている」「彼は役に立つ愚か者だ。首謀者ではなく、ただの駒だ」と付け加えている。

その他の「拡散に協力している人物」

CNNは、ロシアの偽情報を拡散する「もう一人の著名人」としてタラ・リード名前を挙げた。彼女は2020年、当時の大統領候補だったバイデンをセクハラで告発した元上院スタッフの米国人だ。
彼女は2023年にロシアへ亡命し、RTの常連のような立場となった。彼女は過去1年間、XでStorm-1516のナラティブを32回シェアしており、またR-FBIのウェブサイトにも6回登場している。

またクレムソン大の研究者とCNNの分析によると、RTのアイルランド人ジャーナリスト兼コメンテーターのChay Bowes、シドニーのロシア領事館に亡命を求めたプロパガンダポッドキャスターのオーストラリア人Simeon Boikovの二人も、Storm-1516とR-FBIによる偽のナラティブや偽動画をシェアしている。BoikovはCNNの取材に対し、自分は投稿の発信元ではなく、ただコメントをしただけだと語った。ちなみに彼のXアカウントは、つい最近サスペンドされた。

ロシアの影響工作の構造

ロシアの偽情報を利用した影響工作について、その活動のネットワークを研究してきた欧州の上級情報筋はCNNの取材に対し、「このようなエコシステムに関与する人々は、さまざまな理由で活動している。金銭目的の者もいれば、信念に基づいて活動している者もいる」「個人が単独で行動しているのか、それともグループの一員として行動しているのかを見分けるのが難しいこともある」と語った。

そしてクレムソン大の研究者たちは、Storm-1516とR-FBIが「共通の構造の一部」であると考えている。研究チームの共同ディレクターの一人、Patrick Warrenは次のように述べた。
「Storm-1516のナラティブは過去4年間、ロシアの偽情報作戦で最も大きな影響を与えてきた……その背後にいるのが誰であれ、Storm-1516は最も大きな影響力を持った攻撃主だということだ」

最後に

今回、紹介したCNNの記事は「クレムソン大学の研究者とCNNが共同で行った調査の報告」と説明されているが、「Storm-1516に関わっている有名人たち」や「情報筋から聞いた話」など、CNNの独自取材で得られた話題に多くが割かれている。

より技術的な話題や、そこから導き出された専門家たちの考察を読みたい方には、クレムソン大のClemson’s Media Forensics Hubが発表している報告書のほうをお勧めしたい。

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