進化する米の影響工作アトリビューションと懸念
2023年11月22日、米アーリントンで開催された「Cyberwarcon」において、デジタルフォレンジック・リサーチラボ(DFRLab)の研究者が、2024年の米大統領選における影響工作のアトリビューションについて発表したことを米wired誌が報じている。DFRLabによれば、以前に比べて影響工作の主体の特定=アトリビューション特定の数と速度が向上しているという。
その理由は主として米連邦政府、州政府、地方自治体における協力体制が整備されたことによるものだった。2020年までに、DFRLabが調査した84件の影響工作のアトリビューションのうち、33件(約39%)が米情報機関もしくは政府関係の情報によるものだったと述べている。今年、DFRLabが明らかにした80件のうち40件が米国政府の情報によるものだった。2024年の選挙における米政府機関の情報開示はかなり進歩したとDFRLabは語った。
その一方で問題も指摘されている。米政府機関は具体的な根拠をあげてアトリビューションを指摘する以外に、中露イランに対する警戒を内容を特定せずに広範な注意を呼びかけたり、2020年選挙前のBlack Lives Matterへの中露イランの関与については具体的な目的や内容を明らかにしなかった。具体的な内容や根拠に欠けた指摘は不信感や懐疑心を呼び起こす可能性があるため、好ましくない。
米国では2023年以来、偽・誤情報やデジタル影響工作関連の研究がバッシングされて、大きく後退してきたが、米政府や関係機関での情報共有は進み、アトリビューションは進化しているようだ。問題はその妥当性や根拠を検証できる組織が政府の外にはほとんどないことだろう。
また、DFRLabはこの領域の草分けであるが、EUや米の一部で進む偽・誤情報とデジタル影響工作対策の見直しの動きには関与していない。そのため、一部の分野では現実認識が遅れている可能性がある。たとえばパーセプション・ハッキングの分析はほとんど行っていない。これに対して英シンクタンクISDはAIの脅威はパーセプション・ハッキングであるというレポートを公開している。見直しの動きについては、この記事などが参考になる。