豪ASPIに日本の偽・誤情報対策についての記事
オーストラリアのシンクタンクであるASPIのWEBに日本人研究者と思われる(ASPI客員研究員)Takumi Kawasaki氏の記事が掲載された。内容は日本の偽・誤情報、デジタル影響工作対策に関するもので、おおまか下記の内容となっている。
・日本の偽・誤情報対策はまだ準備段階であり、EUのDSAなどの規制ができておらず、専門家が議論している段階である。
・日本は中国の脅威にさらされているが、米国や韓国のような国々における偽情報に対する回復力があるかはわからない。
・日本の人口の半分以上がXを利用しており、重要なニュースなどの情報源となっている。
・G7議長国の日本はAIによる偽・誤情報に対処するための「広島AIプロセス」を導入した。また、外務省は処理済み排水の放出に関する偽・誤情報に効果的に対抗した。外務省の取り組みは称賛に値し、今後の対応のモデルとなる。
・日本も先行事例にならい、規制を設け、基準を設定すべきである。
・SNSプラットフォームを規制するだけでなく、偽・誤情報を拡散している者を名指しし、国民の意識とメディアリテラシーを向上させる必要がある。
といった内容になっており、ほとんど日本政府、特に外務省や総務省が主張している内容に近い。そして、この記事にはいくつか疑問がある。あるいは総務省や外務省が主張していることに疑問があると言った方がよいのかもしれない。
能登半島の地震で救助要請の偽情報によって救出活動が妨げられたと書かれていたが、災害など緊急時の情報は本来行政が用意しておくべきものであり、SNSの偽・誤情報を問題視する以前に行政の怠慢を問うべきという論点が欠けている。また、救出活動が妨げられたというデータも示すべきだろう(救出活動が妨げになったという議論はよく見たが、裏付けとなるデータを私は見たことがない)。
ほんとうに大きな社会的影響があるほど偽・誤情報が拡散しているのかは検証されていないと思うのだが、なにを根拠としているのだろうか? 事例研究や記事では偽・誤情報の拡散規模は調べているものの、正しい情報などの拡散規模は確認していない。全体における比率が低い場合、その影響は限定的であり、それ以外のより比率の高い情報に焦点を当てるべきだ。たとえて言えば、自分のいるビルが燃えているのに、電気ポットのスイッチを切っていないことを問題視しているようなものだ。全体像が見えていない。
先行事例であるEUなどを成功例であるかのように書いており、成果についての評価がない。現在行われている偽・誤情報対策の多くは、効果が期待される根拠があるものよりも政治的文脈で決定されていることが多い。したがって先行事例の効果検証なしに模倣することは危険である。
外務省の対応については賛否両論ある。この記事は外務省の対応を根拠を示さずにほめすぎているようだ。
「偽・誤情報を拡散している者を名指しし、国民の意識とメディアリテラシーを向上させる」ことが対策として効果があることは検証されていない。逆効果となる可能性も指摘されている。
米国に偽・誤情報からの回復力があるとは誰も思わないと思うのだが、なにを根拠に言っているのだろう? これはほんとによくわからない。
これでは、第三国から見た場合、日本政府当局によるナラティブの発信のように見えてしまうだろう。真面目に心配している。