ロシアSDAのオペレーション・アンダーカットに関するレポート
Recoreded FutureのInsikt Groupは2023年11月26日に、ロシアのエージェントSocial Design Agency(SDA)によるオペレーション・アンダーカットに関するレポートを公開した。SDAは漏洩文書や米司法省、OpenAIなどによって暴かれたロシアのエージェントだ。世界でもっとも研究されたと言われるドッペルゲンガー作戦を実施した部隊である。なお、日本語での要約も公開されている。この記事は日本語の要約と全く異なり、ドッペルゲンガーとオペレーション・アンダーカットの比較に焦点をあてているので、合わせて読んでいただけると全体像がわかりやすいと思う。
レポートの内容
今回のレポートは、オペレーション・アンダーカットとInsikt Groupが名付けた作戦は、ドッペルゲンガーと類似する点もあるものの、異なる点も多いことから、別の作戦として行われているという結論になっている。
・ドッペルゲンガーとオペレーション・アンダーカットの共通点
いくつかのコンテンツは非常に似ている。
流布しているナラティブは類似である。
ロシア語、英語、フランス語、ドイツ語、ポーランド語、トルコ語、ヘブライ語など対応している言語が似ている。
エンゲージメントを高めるために対象国のハッシュタグを用いていた。
・ドッペルゲンガーとオペレーション・アンダーカットで異なる点
ドッペルゲンガーと異なり、独自の動画や画像などを用いている。
コンテンツは人間がアップロードしている。ドッペルゲンガーはボットであることが多い。
ドッペルゲンガーの拡散はボットが多いが、オペレーション・アンダーカットでは人間が行っている。
オペレーション・アンダーカットは難読化されていない。
オペレーション・アンダーカットがSDAによるものであるというアトリビューション推定について比較的くわしく書いてあるので参考になる。
ただし、このレポートではオペレーション・アンダーカットはほとんどエンゲージメントを得ていないとしている。これは重要なことだと思うのだが、なぜか日本語の要約には書かれていない。
デジタル影響工作分析の課題を示唆するレポート
いわゆるサイバー攻撃に比べると、デジタル影響工作はその活動の範囲、境界、定義などにあいまいな部分が多く、個々の研究主体によって異なることも少なくない。今回のレポートはそれを端的に示している。雑な言い方をすると、同じアクターが展開している共通部分(特に目標、ナラティブ)もある作戦を異なる作戦として分ける基準は難しいということだ。
ふと思うのは、ドッペルゲンガーもオペレーション・アンダーカットもほとんど効果がないとしている作戦なのだから詳細に区分して分析する優先度は低いのではないだろうか? 最近の事例研究では、ほとんどエンゲージメントを生んでいなかった、事前に阻止したといったものを多く見かける。では、対処できていない脅威や優先度の高い問題はどこにあるのだろう?