ユネスコ調査結果 インフルエンサーがシェアする情報の精度
ユネスコが発表した最新の調査によると、ソーシャルメディアのインフルエンサーの多くは、情報をシェアする前に「それが正確であるかどうかの検証」をしておらず、事前にファクトチェックを行っているのは全体の4割にも満たなかった。この調査結果は、彼らが(および彼らの影響を受ける社会が)誤情報や偽情報に対してどれほど脆弱であるのかを示している。
報告の概要
今回ユネスコ(UNESCO:国際連合教育科学文化機関)が発表したのは、デジタルコンテンツのクリエーターたちの意図や実践、課題について調査した報告書だ。この調査の実施には、米ボーリンググリーン州立大学の専門知識が活用されている。
・調査の実施期間:2024年8月〜9月
・調査の対象者:54カ国の、1000人以上のフォロワーがいるコンテンツクリエイター(インフルエンサー)500人。
・対象者の言語別の内訳:英語圏150人、英語以外の7つの言語圏(フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、ロシア語、中国語、アラビア語)が各50人
・対象者のフォロワー数による分類:
- ナノインフルエンサー(1000人〜1万人):68%
- マイクロインフルエンサー(1万人〜10万人):25%
- マクロインフルエンサー(10万人〜100万人):5.4%
- メガインフルエンサー(100万人以上):1.6%
注目されるポイント
今回の報告では、彼らの動機や行動に関する幅広い調査が行われているが、ここでは主に「彼らがシェアしている情報の精度」の部分に焦点を当てたい。
〇拡散する情報の「検証」について
・「情報をフォロワーへシェアする前に、信頼できる情報かどうかを確認していない」と認めた回答者が最も多く、全体の62%にのぼった。
・「情報のファクトチェックを行っている」と回答したのは、わずか36.9%。
・「情報源を信頼していれば(情報の信頼性を確認せずに)シェアする」と答えたのは33.5%。
・さらに15.8%が「単に面白い、または役に立つと思うコンテンツなら、情報の信頼性を確認せずにシェアする」と答えた。
また従来どおりのニュースメディアはリソースとして重視されておらず、「検証のために(何らかの形で)主流のジャーナリズムを利用している」と答えた回答者は全体の36.9%にとどまった。
〇「信頼性」の基準
彼らの多くが「コンテンツの人気」を信頼性の判断基準としており、証拠を重視している回答者は全体の2割にも満たなかった。
・情報の信頼性を判断する主な要素として最も多かったのは、「コンテンツの『いいね!』の数と閲覧数」だった(全体の41.6%)。
・二番目に多かったのは「信頼できる友人や専門家にシェアされているかどうか」(20.6%)
・次いで「テーマに関する著者、または発行者の評判」(19.4%)
・「コンテンツに証拠や(根拠を示す)文書が含まれているかどうか」は四番手となり、わずか17%だった。
〇活動の動機
活動の動機について回答者が選んだトップ3は以下のとおり。
・知識を共有したい(26%)
・収入を得たい(23.8%)
・フォロワーを楽しませたい(23.4%)
〇その他の懸念される事項
・自分のスポンサー、その他の資金源をフォロワーへ適切に開示していた回答者は約半数にとどまった。
・約35%が「著作権に対する懸念」「真正性と商業的利益のバランス」などの倫理的なジレンマを感じていた。
・約3分の1が「ヘイトスピーチを経験した」と回答している一方で、それをプラットフォームに報告する適切な方法を理解していたのは、わずか20.4%だった。
・約60%が、基本的な規制の枠組みや国際基準を理解しないまま活動していた。
・約4分の1が、自分の活動している国で、自分のコンテンツに適用される規制を認識していなかった。
・彼らのコンテンツは1000人〜数百万人のフォロワーに届き、そこからさらに拡散される可能性があるにも関わらず、「自分には継続的な影響力がある」と考えている回答者は18.6%にとどまった。
・大半の回答者の年齢は35歳未満だった。
・メディアリテラシーに関わる何らかのトレーニングに参加した経験を持つ回答者は13.9%にとどまった。
〇ユネスコの総評と勧告
これらの結果について、ユネスコは以下のように記している。
「ファクトチェックの普及率が低いことは、彼らが誤情報に対して脆弱であることを浮き彫りにしており、それは公共の議論やメディアへの信頼において、広範囲にわたる影響を及ぼす可能性がある」
「情報の厳密な批判的評価が一般的に欠如していることは、『信頼できるファクトチェックのリソースの特定や利用』など、クリエイターのメディアリテラシー、および情報リテラシーのスキルを強化することの緊急的な必要性を浮き彫りにしている」
そしてユネスコは「心強いことに、回答者の73.7%が倫理的慣行とコンテンツ作成基準に関する無料のオンライントレーニングに関心を示している」と報告している。そして、この研究結果は、ユネスコのオンラインコース(ユネスコとKnight Centre for Journalism in the Americasが開発した、デジタルコンテンツクリエイター向けのリテラシースキルのトレーニングコース)に反映されることを告知している。
〇注意すべき(かもしれない)ポイント
この調査報告について報じている英語メディアの多くは、回答者を「インフルエンサー」と呼んでいる。それは決して誤りではない。しかし回答者のほぼ7割がナノインフルエンサー(フォロワー数1000人〜1万人)であり、メガインフルエサーはたったの1.6%しかいない。つまり「500人のインフルエンサー」といっても、世界中に散らばっている有名なインフルエンサーたちから得られた回答ではない、という点は注意したほうがいいだろう。
もちろん「だから深刻に受け止めないほうがいい」という話ではない。むしろナノインフルエンサーはエンゲージメントが高くなる傾向があり、また一部の熱心なファンを囲い込みやすいので、彼らが情報の精度を重視していないことのほうがより深刻だという考え方もあるだろう。
すこし残念なのは、回答者全般の傾向しか分からないことだ。この調査からは、フォロワー数が数千人のクリエイターと、数百万人のクリエイターで、情報の検証の精度や信頼性の評価の基準に差があるのか、倫理的なジレンマに陥りやすいのはどちらか、リテラシーについて不安を抱えているのはどちらか、といった傾向が見えてこない。また「スポンサーの存在を隠して情報発信することが違法になる国、ならない国」による差や、プラットフォームごとの回答差も見てみたかった、と考える人はいるだろう。
ともあれ、この報告は幅広い範囲において、実際に活躍しているインフルエンサーたちの実情を数字で示した興味深い調査結果だ。「世界中のソーシャルメディアで偽情報や不正確な主張が広まりやすいことへの懸念」を確認するには、それぞれのプラットフォームや単一のメディアによる調査ではなく、国連の教育科学文化機関が実施した一斉調査の結果であるという点も重要だろう。
普段から偽情報や誤情報に関心を持っている人であれば、「多くのインフルエンサーは情報の精度を軽んじている」と言われても、そうでしょうねという感想になりそうだ。しかし、一部の怪しいインフルエンサーの情報をせっせとシェアしつづけている友人や家族の目を覚ますには、かなり有効な資料かもしれない。
調査結果の全文はここでダウンロードできる。
Behind the screens: insights from digital content creators; understanding their intentions, practices and challenges
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000392006