DFRLabによる日本のX空間への中露ナラティブの分析
この領域の関係者とお目にかかった際、「じゃあ、デジタルフォレンジック・リサーチラボに依頼すればいいじゃないですか」と言うことがたびたびあった。自分たちで分析できないなら、頭を下げて教えを乞うしかない。(最近は、デジタルフォレンジック・リサーチラボのレポートにもやもやするものが増えたので言わなくなった)
しかし、実際にデジタルフォレンジック・リサーチラボが日本の状況を分析したレポートを目の当たりにすると、「見なきゃよかった」という思いが頭をよぎった。
デジタルフォレンジック・リサーチラボは、2024年12月18日に、日本のX空間における外国からのナラティブ干渉を分析したレポート「Foreign narratives proliferate among Japanese X communities」を公開した。
レポートの内容
この調査では、まず外国の著名なメディアや外交アカウントとエンゲージメントしているアカウントを特定し、そのアカウントが拡散しているアカウントを加えという手順で新しく加わるアカウントのエンゲージメントが一定水準以下になるまでネットワークを広げ、66のアカウントを特定した。レポートでは明記していないが、「外国の著名なメディアや外交アカウント」の外国とは中国とロシアを指している(その後の内容から考えてそうとしか思えない)。また、外国のアクターが狙う地域的な不満に関連するニュースとして沖縄のニュースアカウントも含めている。沖縄の問題をかなり気にしているようだ。この調査方法はきわめて重要なので、忘れないでいただきたい。
2023年5月1日から2024年7月15日のXのデータを収集し、分析、視覚化している。一連の分析の手順は大変興味深いので関心ある方は元レポートを読むことをおすすめする。
・抽出された7つのコミュニティ・クラスタ
薛剣コミュニティ(薛剣は中国の大阪総領事) 薛剣の中国語のコンテンを支援
親露コミュニティ 親露と反西側の発言のリポストや引用が多い
浮動コミュニティ 多くは親中。薛剣と親露の投稿のリポストや引用が多い。
沖縄コミュニティ 沖縄のニュースアカウントで構成されている。このコミュニティのあるアカウントはコミュニティ外から多くリポストされている。
原口一博と藤原直哉 立憲民主党の原口一博は藤原直哉の発言を頻繁にリポストや引用しているのでペアになっている。
Holmesコミュニティ Holmesというアカウントと、頻繁にリポストされる3つのアカウントから構成される。
その他コミュニティ
・4つのブリッジアカウント
コミュニティをまたがるリポストなどでコミュニティをつないでいる4つのアカウント(ブリッジアカウント)が特定された。親露コミュニティと浮動コミュニティがもっともつながっていた。
・各コミュニティで人気のあるアカウント
薛剣コミュニティ 中国のコンテンツファームから観光コンテンツを中国語のままリポストしたりしている。Asia Press Club (APC) (@2018_apc) はよく親中情報を投稿している。また、レコードチャイナというメディアは事実上中国の影響を受けていることが暴露されている。
その他、在日の中国人実業家などのブリッジアカウントが活動している。
親露コミュニティ もっとも人気のあるアカウントは独自性はなく、主に他の情報源からの転載である。もっともよく転載されるのはTotal News Worldだった。次いで人気のあるアカウントは、反グローバリズム、反持続可能な開発目標、反 NATO、親ロシア、親プーチンなどについて発言している。この2つのアカウントのフォロワーは、2023年2月には600人と4,500人だったが、2024年12月には15万人と6万人を超えている。レポートでは中露との接点はなく、独立して活動していると判断している。
ふたつの人気アカウント以外にもっぱら翻訳した内容を投稿しているアカウントも人気がある。また、親露のブロガーも人気だった。
原口一博と藤原直哉コミュニティ 立憲民主党の原口一博の人気でできているコミュニティ。ディープステートなどの陰謀論の発言が多く、親露の主張を繰り返している。反ワクチンでも有名。
・日本特有の脆弱性
このレポートでは日本では自然災害が起こりやすく、その際、海外からの干渉を受けやすい。また、ロシアや中国と領土問題を抱えている。また、沖縄は中国のターゲットになっている。これらが日本の脆弱性となっている。
日本の状況についての数少ないレポートなのだが……
国内外である程度のボリュームのあるデータを用いた体系的な分析は数少ない。その点では稀有なレポートで参考になる。ただし、調査方法は中露のプロパガンダおよび沖縄に関与するアカウントをターゲットにしたもので、それ以外のイラン、イスラエルなど他の国はもちろん、国内外のイスラム過激派やQAnonや極右などは対象外となっている。
したがって、このレポートで取り上げなかった問題の方がはるかに大きい可能性があるわけだが、それには一切触れていない。
また、結果だけ見ると、あたかも親中、親露、原口一博、沖縄などが日本のXでもっとも大きな影響力を持っているかのように錯覚する人も多いだろう。しかし、中露のプロパガンダおよび沖縄に関与するアカウントを中心に調査を行っているので、そうなるのは当然の結果であり、日本のXでもっとも大きな影響力を持っていることは検証されていない。結果だけ一人歩きすると危険だ。
沖縄のニュースをいれたのは想定通りの結論に導くためとしか思えない他、日本は災害時に干渉を受けるリスクがあると言いながらも、その根拠を示していない。中国国内不買運動くらいだ。しかし、それは中国が自国内に向けて扇動した結果であって、その他の国への干渉が成功したわけではない。
中露は脅威であり、国内のインフルエンサーも問題、災害と沖縄にも対処が必要。そして冒頭では日本のファクトチェック団体をあげている。うがった見方かもしれないが、これらをよく話題にする日本のどこかの省庁が発注してレポートを書かせたのではないかという気すらしてくる。DFRLabは信用できるはずだったのですが。
蛇足であるが、この領域の事例研究の多くはこうしたミスリードになっている。調査結果を見るとき、忘れてはならない。
また、Robert Kajiwaraは日本人ではなく、ハワイ生まれの日系人だし、レポート冒頭のKazuhiro Hiraguchiは原口一博のタイポじゃないかと思う。いろいろ気になることが多いレポートです。ここでこれ以上書くのは適切ではないので、この先はご自身でご確認いただきたい。