ニュースインフルエンサーと既存メディアの未来
ニュースインフルエンサーと既存メディアの未来に関する対談が、米国公共ラジオ放送(NPR)に掲載された。対談したのは、Knight Center for Journalismの副所長Summer Harlowと、TikTokで300万人以上のフォロワーを持つニュースインフルエンサーV Speharである。
テキサス大学オースティン校Knight Center for Journalismではニュースインフルエンサーが正確さと信頼を構築するためのContent Creators and Journalists: Redefining News and Credibilityクラスを設けている。既存メディアが信頼を失い、利用者を失っている一方で、ニュースインフルエンサーはこれまでないやり方で利用者を獲得している。ニュースインフルエンサーから学ぶべき点があるというのがContent Creators and Journalists: Redefining News and Credibilityクラスを作った理由だ。
ニュースインフルエンサーと正確さ
対談の内容は多岐にわたっているが、どの話題もニュースインフルエンサーと既存メディアの未来について示唆的である。たとえばおおかたの予想に反して、V Speharは自分の伝える情報が不正確であった場合、すぐに利用者が離れると考えて、正確さに常に注意を払い、多くの資料を確認している。既存メディアはニュースインフルエンサーを下に見ているが、それは新しいメディアが登場した時、既存メディアが取るいつも態度で抵抗感にすぎない。ニュースを受け取る人々が、ニュースインフルエンサーはトレーニングを受け、事実確認を行っていると期待してもらえるようにしなければいけない。
インフルエンサーは既存メディアにない透明性を持っている
Summer Harlowによれば、ネットで影響力を持つ人々の多くは、利用者に対して、なぜこのテーマを選んだのか、情情報源はどこなのか、なぜこの人物にインタビューしなかったのか、あるいはなぜ他の記事を書かなかったのかを説明している、と語る。インフルエンサーの透明性は、従来のジャーナリズムでは欠落していた。
ニュースインフルエンサーと既存メディアの協業可能性
既存メディアはニュースインフルエンサーを劣ったものと見ているが、影響力があるのはニュースインフルエンサーの方である。このことから両者の間には緊張関係がある。それがきわだったのは選挙の時だ。ニュースインフルエンサーが民主党と共和党の両方の全国大会に参加し、配信を行った。既存メディアは、V Speharのやり方を、不真面目だと批判したが、多く視聴されたのはV Speharの方だった。発信力とコミュニケーション能力の違いは歴然としており、ただ否定しているだけではなんの解決にもならない。
V Speharは自分はウクライナに行って取材するフォトジャーナリストにはなれないが、協業することでより多くの人に重要な情報を伝えることができると語っている。
既存メディアの怠慢
当たり前のことだが、あまり語られてこなかったことも触れられている。Summer Harlowは、ジャーナリストはコミュニティにリーチし、信頼を得ることはがしなければならなかったが、それを怠ってきた、と語る。現在はニュースインフルエンサーがその役割を担っている、と指摘している。
また、偽・誤情報はネット以前から存在しており、既存メディアにもあった。それがSNSによって拡散しやすくなったというのも同様だ。
この対談では上記以外にも既存メディアとニュースインフルエンサーの違いや協業も話題になっており、非常に参考になる。これまであまり指摘されなかった既存メディアの透明性の欠如もとりあげられている。ネット上のインフルエンサーの中に問題のある発言や誤った情報を発信している者がいることも事実だが、既存メディアも同様である。
余談だが、この記事で参照されているピューリサーチセンターの調査ではニュースインフルエンサーの重要性がわかるが、その中でTikTokは男女比がほぼ同じで、党派性の偏りがもっとも低いSNSとなっている。ほとんどのSNSでは男性が多く、右寄りが多い。なお、この調査はフォロワー10万人以上のインフルエンサーを対象としている。