米国の3分の1以上の州が導入したポルノ閲覧制限

  • URLをコピーしました!
目次

米国の17州が「ポルノサイトの年齢確認」法を施行

2025年1月1日、フロリダ州とサウスカロライナ州が「ポルノサイトの閲覧に18歳以上の年齢確認を実施させる法」を施行した。これにより米国では計17の州が、「Pornhub」のような成人向けのオンラインコンテンツに対するアクセス制限を導入したことになる。さらに今年7月にはジョージア州も、18歳未満によるポルノサイトの閲覧を禁止する新法を施行する予定だ。

これらの州でポルノサイトを利用するユーザーは(通常であれば)パスポートや運転免許証などの「州で承認されているID」を提示しなければならない。そして違反者は多額の罰金(フロリダ州の場合、最大50,000ドル)などの罰則や民事責任を追及される可能性がある。規制に反対する人々の多くは、このような年齢確認の手法がプライバシーの侵害に該当すると考えている。

Aylo社の懸念と抗議

またPornhub、RedTube、YouPornなどのポルノ動画サイトを運営しているAylo社は、その措置がユーザーの個人データを危険に晒すものだと批判している、同社は抗議の一環として、フロリダ州のユーザーによるアクセスを2025年1月1日以降ブロックすると発表した。同社の広報担当者は、The Independentの取材に対して以下のように述べている。

「Ayloは長年にわたり、ユーザーの年齢確認を公に支持してきた。しかし、このような法の施行はユーザーの安全とプライバシーを保護し、大人向けコンテンツへのアクセスから子供たちを効果的に保護するものでなければならないと我々は考えている。残念ながら、フロリダ州など世界中の多くの地域が採用した『年齢確認の手法』は、効果がなく、場当たり的で、そのうえ危険だ。何十万ものアダルトサイトに対し、機密性の高い個人情報を大量に収集するよう求める規制は、ユーザーの安全を危険に晒すものだ」

ちなみにAylo社は、すでに12の州(ケンタッキー州、インディアナ州、アイダホ州、カンザス州、ネブラスカ州、テキサス州、ノースカロライナ州、モンタナ州、ミシシッピ州、バージニア州、アーカンソー州、ユタ州)でPornhubへのアクセスをブロックしている。

VPNの需要拡大

一方で、これらの州のユーザーは(当然ながら)VPNの利用を検討している。自分がどの州からアクセスしているのかさえ隠せば、Aylo社のブロック対象から外れることができるためだ。というよりも「特定の州のユーザーに要求される年齢制限の厳しいチェック」そのものも回避できることになる。

とりわけ年齢確認法を新たに施行したばかりのフロリダ州とサウスカロライナ州では、施行日(2025年1月1日)の直後からVPNの利用が急増した。vpnMentorのブログによれば、この2州におけるVPNの需要は「法律施行から4時間で1150%増加した」という。年が明けたばかりであるにも関わらずだ。

とはいえ、それは充分に予想できたことだろう。同ブログによると、Pornhubが2023年5月にユタ州からのアクセスを制限した際にも、VPNの需要は967%増加した。テキサス州で同様の法律が施行されたときも、VPNの需要が234.8%増加していたという。

vpnMentorは次のように記している
「フロリダ州のポルノウェブサイトに関する新しい法律と、それに伴うVPN利用の増加は、テクノロジー、プライバシー、規制の枠組みの複雑な相互作用を強調している。オンライン活動に関する法律は絶えず変化しているので、ユーザーとウェブサイト運営者の両方が、規制に関する(最新の)知識を常に持ち、コンプライアンスを確保することが不可欠だ」

※ちなみに同ブログは文末で「VPNにはプライバシーとセキュリティ強化の利点があるが、決して違法な活動に使用するべきではない。vpnMentorは、違法な目的でのVPNの悪用を推奨または容認しない。ユーザーは、自身のオンライン活動の法的影響を理解し、責任を持ってVPNのサービスを使用しなければならない」と太字で警告している。

テネシー州の「差し止め」

一方テネシー州も、フロリダ州やサウスカロライナ州と同様の法律を昨年制定したばかりで、その法を同日(2025年1月1日)から施行する予定となっていた。しかしメンフィス連邦地方裁判所のリップマン判事は施行直前の2024年12月30日、「成人の言論の自由を抑制する可能性が高い」と判断し、この法律の大部分を差し止めた。この決定を受けた州司法長官事務所は、ただちに上訴している。

まずテネシー州で同法が可決されたのは、共和党の議員が圧倒的な多数を占めている議会で(このとき反対票を投じた議員は一人もいなかった)、共和党のビル・リー知事が署名を行った。同法は年齢確認を行うための方法として「IDと写真の照合、特定の公的または私的な取引データの使用」などを明確に認めている

そして、この制定に対して訴訟を起こしたFree Speech Coalitionなどの原告が、司法長官による法の執行を阻止できる「予備的差し止め命令」を勝ち取った。リップマン判事は判決の中で「未成年者のデバイスに対する保護者の管理のほうが(法よりも)効果的で制限が少ない」「(たとえ法に基づいて管理しようとしても)VPNを利用すれば未成年者が成人向けのサイトにアクセスできる可能性がある」「ポルノのプラットフォームではない一般のソーシャルメディアでも、未成年者が性的なコンテンツを閲覧する可能性はある」と指摘した。つまり「効果的な法ではない」という判断だ。

同判事は、この法の「未成年者に有害となるコンテンツ」の定義についても、広範囲に及びすぎかねないという懸念も示した。たとえば健康や性教育を目的としたオンライン教育、あるいは文学や芸術などの分野のコンテンツも「有害」と見なされる可能性があるのではないかという懸念だった。

そして現在、テネシー州のジョナサン・スクルメッティ司法長官事務所は、たとえ訴訟が進行中でも法を施行できるよう控訴裁判所に申し立てを行っている。「テネシー州の未成年者保護法は、露骨で猥褻なコンテンツに子供たちがアクセスするのを防ぎながら、それを選択する成人のプライバシーも保護できる、常識的な年齢確認を導入するものだ」とスクルメッティは述べている。

一方で、Free Speech Coalitionのエグゼクティブディレクター、アリソン・ボーデンは 「これは人間の乳首に言及するだけで刑事訴追のリスクを問われるような、深刻な欠陥のある法であり、ウェブサイトの運営者を危険に晒すものだ」と述べている。

トランプ政権とポルノサイト

このようにしてテネシー州では例外的に、かつ予備的に差し止めの判断が下されたが、今後のトランプ政権ではフロリダ州やサウスカロライナ州に続く州が増加するだろうと考えられている。なにしろ保守系シンクタンクHeritage財団の「Project 2025」計画が、さらなるポルノの規制を提案しているからだ。

※Heritage財団のProject 2025
https://inods.co.jp/news/2908/

Project 2025は「ポルノには言論の自由に関する憲法修正第1条の保護が適用されない」と見なしており、「ポルノには違法薬物と同様の中毒性があるため、犯罪と同様の破壊的なものである」と主張している。さらに「ポルノは非合法化されるべきだ。それを作成し配布した人々は投獄されるべきだ」「ポルノを販売する教育者や公立図書館員は性犯罪者として登録されるべきだ。そしてポルノの拡散を助長する通信会社やテクノロジー会社は閉鎖されるべきだ」とも述べている。

そして言うまでもないことだが、すでに「ポルノサイトの年齢確認」法を導入している州は共和党を支持する傾向が強い。The Independentが作成した「Porn restrictions in the US」のマップと、2024年大統領選の選挙結果のマップを比較しても分かるように、これらの法を制定した(あるいは先述のようにAylo社がブロックした)州は重なっている。今後、二つのマップの「赤い部分」が似たような割合になるという可能性も、大いに考えられるだろう。

ChessratElectoralCollege2024CC0 1.0
Anthony Cuthbertson, Independent, Monday 06 January 2025, https://www.independent.co.uk/tech/pornhub-ban-news-states-florida-redtube-b2673628.html

参照URL
https://www.independent.co.uk/tech/pornhub-ban-news-states-florida-redtube-b2673628.html
https://www.independent.co.uk/tech/porn-florida-vpn-free-pornhub-b2674361.html
https://floridapolitics.com/archives/712465-pornhub-will-block-access-for-floridians-on-jan-1/
https://apnews.com/article/tennessee-porn-age-verification-lawsuit-2fdc2563836315c6d4e8eb4d57ab9913
https://www.vpnmentor.com/news/vpn-demand-surge-florida/

よかったらシェアお願いします
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

やたらと長いサイバーセキュリティの記事ばかりを書いていた元ライター。現在はカナダBC州の公立学校の教職員として、小学生と一緒にRaspberry Piで遊んだりしている。共著に「闇ウェブ」 (文春新書) 「犯罪『事前』捜査」(角川新書)などがある。

目次