ドッペルゲンガー最新レポートが象徴する対策の弱体化

また、そう、またと言ってもよいと思う。ロシアのデジタル影響工作ドッペルゲンガーに関するレポートが公開された。Check Firstと、Reset.tech、AI Forensicsによる「Influence by Design: How Meta Accepted Russian Propaganda Payments Despite Sanctions」だ。
ドッペルゲンガーはMetaに広告を出稿し続けていた
ドッペルゲンガーを運営しているロシアのSocial Design Agency (SDA)はMetaの規制をかいくぐって広告を出稿し、Metaの利用者にリーチしていた。
・SDAはMetaの規制を回避し、EU内だけで123,000回以上のクリックを生み、Metaに広告収益338,000ドルをもたらした、と推定される。2022年から2024年7月までにドッペルゲンガーの活動でMetaが得た収益合計の推定は455,164ドル(約7千万円)だった。
・このレポートではMetaのDSA違反の可能性やネットでの制裁措置の難しさを浮き彫りにしている。特にMetaに対してはドッペルゲンガーの検知と活動阻止には進歩があったものの、ドッペルゲンガーの広告については一貫性のない対応で進歩が見られないとしている。
・ドッペルゲンガーは影響工作の効果測定にMetaやファクトチェック機関がドッペルゲンガーに言及しる露出で計算している。*これはSDA漏洩文書からの分析である。
・ChatGPTを使用して広告のクリエイティブを作成していた。
広がる攻撃側と防御側のギャップ
このレポートではMetaの過去の脅威レポートを分析し、ドッペルゲンガーの検知と停止が進歩してきていることを確認している。しかし、ひとつ重要なことが取り上げられていなかった。それは2024年第2四半期のレポートで、ドッペルゲンガーがパーセプション・ハッキングである可能性を指摘していたことだ。
パーセプション・ハッキングは影響工作が暴露されることで、相手国の国民に情報に対する警戒心、不信感を植え付け、全ての情報に対して懐疑的にさせる手法だ。成功すれば、あらゆる情報に懐疑的になる警戒主義を蔓延させることになり、警戒主義は民主主義そのものにも不信感をいただくようになる。
パーセプション・ハッキングは、「できるだけ目立つように暴露される」ことが重要なので、このレポートで紹介されているMetaやファクトチェック機関に言及されたことを成功尺度にしていることとつじつまが合う。しかし、このレポートではそのような分析はしていない。
Metaのドッペルゲンガーに関する分析をいくつも引用しているのに、最新のパーセプション・ハッキングの指摘だけは取り上げていない。
今回のレポートを作成したCheck Firstはロシアのオペレーション・オーバーロードについてのレポートも公開している。オペレーション・オーバーロードの目的のひとつは、「発見されること」だったので、それとも一致する。
仮にロシアがパーセプション・ハッキングを仕掛けているとすればデジタル影響工作対策が進んできた欧米に適応した進化と言えるだろう。一方で防御側は進化せず、毎回同じように数値を分析し、プラットフォームの問題などを指摘している。Metaの脅威チームの弱体化を考えると、このギャップはさらに広がりそうだ。