26の大統領令が示唆するサイバー空間への影響

昨日、トランプが大統領に就任した。就任式には以前の記事に書いたように米国ビッグテックが揃い踏みした他、TikTokを提供している企業のCEOもいた。
トランプがサインした文書
トランプが就任式当日にサインした大統領令は26で、これは歴代の中でも抜きん出て多い。さらにそれ以外の文書にもサインしている。この中でサイバー空間に直接あるいは間接的に関係あるものを9つピックアップした。
●直接関係するもの
1.前大統領がサインした78の大統領令の撤回。ここにはAIの規制が含まれている。
2.言論の自由と政府による検閲の禁止
3.TikTok禁止法の75日間の執行猶予
●間接的に関係するもの
4.パリ協定からの離脱
5.WHOからの脱退
6.移民受け入れプログラムの見直し
7.男と女の性別しか政府は認めない
8.多様性プログラムの廃止
9.2021年1月6日連邦議事堂襲撃事件に関わって有罪となったすべての個人に恩赦
「2.言論の自由と政府による検閲の禁止」、「7.男と女の性別しか政府は認めない」、「8.多様性プログラムの廃止」はMetaやAmazonがすでに対応しており、さらに「1.」のAI規制緩和が加わったことでビッグテックの自由度は広がった。トランプ政権とビッグテックのwinwin関係をオリガルヒ化と呼ぶ声もある。
民主主義を捨てることで強化されたハイブリッド能力
もともとアメリカは世界に陰謀論と極右(白人至上主義者含む)を輸出している国であり、その被害は中露に負けずとも劣らない。今回、「2.言論の自由と政府による検閲の禁止」、「4.パリ協定からの離脱」、「5.WHOからの脱退」によって、さらにその傾向に拍車がかかるのは間違いない。特に「9.2021年1月6日連邦議事堂襲撃事件に関わって有罪となったすべての個人に恩赦」は強烈で、陰謀論と極右であれば犯罪行為を行っても恩赦される可能性が高いことをシグナルとして送ったことになる。
たとえば今回の大統領令に対する抗議集会やデモが起きた時、武装した陰謀論者や極右グループが襲撃して抗議を鎮圧することが増加するだろう。
しかし、表だってアメリカが陰謀論や極右を輸出していることを責められることはほとんどない。民主主義の象徴である国の実態をさらしてしまえば民主主義を支えてきた幻想が終わってしまうとでも考えているのだろうか?
これまで民主主義国は非国家アクターの活用や、国内世論の制御がうまく行えていなかった。しかし、今回のトランプ政権では、ビッグテックや陰謀論者や極右を活用することで、それらを効率的に行うことができる。グーグルやAmazon、Meta、Xが管理しているデータに自由にアクセスでき、必要に応じて個人、グループ、世論を誘導して、特定の相手を社会的に抹殺することも可能になった(表向きの拒否可能性が高い)。これまで中国が行ってきた国内の監視や言論統制がより洗練された形で実現できる。同様に米国ビッグテックのサービスを利用している他国の言論を誘導することも可能になる。特にヨーロッパに対しては陰謀論者グループと極右グループを併用して、相手国の極右政党と連携できる。
中露を越えた能力を背景に、中露と連携も?
中露はサイバー犯罪者や民兵をうまく利用しているが、これからのアメリカは陰謀論者や極右で対抗できる。おそらく真っ正面からぶつかるのではなく、表向きは対抗しつつも実際には数少ない勢力となったまっとうな民主主義国を廃絶する方向で協力し合う方が双方のメリットが大きいと言えるかもしれない。