「2024年の偽情報キング」ジョン・マーク・ドゥーガン

NewsGuardは、アメリカ合衆国選挙を控えて突飛なフェイクニュースやAI捏造画像が氾濫した2024年における「偽情報キング(NewsGuard’s 2024 Disinfoemer of the Year)」に、ロシアに亡命した元フロリダ州副保安官のジョン・マーク・ドゥーガン(John Mark Dougan)を選出した。少なくとも32本の虚偽ストーリーと171件の偽ローカルニュースサイトに関係し、6700万回の再生回数を記録したフェイクニュース製造の「功績」が、大きな受賞理由である。
彼の活躍はこのサイトでもたびたび取り上げてきた。
「あの愚か者は唯一のチャンスを逃した」トランプ暗殺についてのオバマのディープフェイク音声が拡散
米選挙に干渉するStorm-1516とR-FBIの関係
ドイツ選挙へのロシアの干渉が暴露
彼は精力的に偽・誤情報の生産を行っており、おかげでNewsGuardは彼のための情報保管庫を用意したほどだ。
ドゥーガンは、ロシアの偽情報ネットワーク「Storm-1516」の一員で、解散したロシアのトロールファームInternet Research Agency(IRA)の残党だ。2024年のアメリカ大統領選挙では、民主党陣営を標的とし、「カマラ・ハリス(Kamala Devi Harris)はコカイン依存症だった」「副大統領候補ティム・ウォルツ(Tim Walz)は教え子に性的虐待をした」などのフェイクニュースを流してきた。
ドゥーガン自身は、欧米メディアの取材に対し、ロシアとの関わりを一貫して否定しているが、次期アメリカ大統領の選出が間近に迫った2024年10月下旬には、ロシア国営テレビに出演し「おれはアメリカで危険人物だと恐れられているのさ」と誇らしげに語っている。同月、ワシントンポストがこの件を報じ、ドゥーガンがロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)から報酬を受け取っていると追求すると、遅きに失した感はあるものの、アメリカ財務省は2024年12月31日に、ドゥーガンの上司と目されるヴァレリー・コローヴィン(Valery Korovin)と、コローヴィンが率いるモスクワの「地政学専門研究所」に対する制裁を発表した。
ドゥーガンの「作品」は、偽のローカルニュースレポートや架空の内部告発者の証言のかたちをとることが多い。これをロシアのインフルエンサーやボットネットが拡散し、ロシア側メディアがあたかも事実のごとくに報道する。そしてしばしば、西側諸国のメディアや政治家がこれに引っかかるという仕組みである。共和党の下院議員マージョリー・テイラー・グリーン(Marjorie Taylor Greene)と第2次トランプ政権の副大統領J・D・ヴァンス(J.D. Vance)が声高に引用した「ウクライナのゼレンスキー大統領(Volodymyr Zelensky)が米国の軍事援助を利用して高級ヨットを購入した」というフェイクニュースは、その代表例だ。
ドゥーガンは、ロシアの現代の情報戦術の体現者だ。彼はカメラを片手に、自分をエドワード・スノーデン(Edward Joseph Snowden)のような告発者として演出し、「市民ジャーナリズム」を装ったプロパガンダを量産している。彼に続くエピゴーネンもすでに生まれている。2016年にロシアに亡命する前からすでに、ドゥーガンはフロリダの保安官をターゲットとした偽のニュースサイトを手がけていた。彼は「ピンクスライムジャーナリズム」の発明者ではないかもしれないが、その改良と普及に一役買っていることは疑いようもない。ピンクスライムとは、クズ肉を元に作られたきめの細かい加工肉をさす言葉で挽肉の増量などに用いられる。質の悪い記事を量産することからこの呼び名がついた。
アメリカ合衆国選挙は終了したが、ドゥーガン一味はすでに2025年2月のドイツの早期選挙に向けて動いている。ドイツ緑の党の首相候補ロバート・ハーベック(Robert Habeck)の性的虐待疑惑を告発するフェイク動画や、ドイツが190万人のケニア人労働者を受け入れることを計画していると不安を煽る虚偽のローカルニュースは、まさにドゥーガンの十八番の手段であり、否応なしにその影がちらつく。
ドゥーガンの戦術の有効性は、すでにアメリカ合衆国選挙で「証明」されてしまっている。世界中の民主主義をうたう国家も、もはや対岸の火事と眺めているわけにはいかないだろう。