デジタル影響工作に対する新たな対策:取材速報 ウクライナ サイバー戦司令部大佐

ウクライナで行われている偽・誤情報やデジタル影響工作に対抗するアプローチをご紹介する。当研究所代表の齋藤教授の知己であるウクライナのサイバー戦司令部(Cyberwarfare Directorate)のMaksym Pavliuk大佐の協力によって、偽・誤情報やデジタル影響工作対策の戦略的優先事項の変化が明らかになった。
2つのポイント
国内対策の優先
主な調査結果は、デジタル影響工作に対抗するための国内対策の重要性を強調している。偽・誤情報の否定やボットの検出などの従来の「古典的なアプローチ」は依然として有効であるが、対象国の国内問題に対処することも同様に重要であることがウクライナにおける実戦で確認された。
レジリエンスのための包括的アプローチ
古典的なアプローチと国内対策を組み合わせることで包括的な戦略が生まれ、偽・誤情報やデジタル影響工作に対する強固な「免疫システム」が構築される。この包括的なアプローチは多くの民主主義国では著しく欠如しており、つけこまれる脆弱性となっている。
ウクライナの実践的な実施項目
Pavliuk大佐によるウクライナが採用している具体的な戦略は下記の通り。
- 信頼構築:ゼレンスキー大統領が国民に毎日発信するメッセージは、信頼を構築し、デマに対抗する強力なツールとなっている。ロシアのプロパガンダに先手を打って対応し、その誤りを指摘することも多い。
- 信頼できる情報源:市民に信頼できる情報源を見つけ、フォローするよう促すことは、影響工作を回避する上で効果的である。
- 内部での情報共有:最高軍事司令部の日々のブリーフィングや、さまざまな機関からの定期的な最新情報の提供により、一貫した内部コミュニケーションが確保されている。
- 効率的な情報発信:ウクライナの主要テレビ局は、大規模な侵攻開始から3年間、24時間365日放送のマラソン番組で内容を統一し、継続的かつ協調的な情報フローを確保している。
国内対策の枠組み
ウクライナの戦略は、効果的な国内対策の主要な要素をいくつか概説した他の研究の下記の結果とも一致している。
- 政府、メディア、専門家、市民間の信頼を再構築する
- 効率的で透明性が高く、積極的な政府広報を実施する
- 信頼できる情報源へのアクセスを確立する
- すべての利害関係者間で適切かつ効率的な情報共有を促進する
示唆と今後の研究
ウクライナのアプローチは、デジタル影響作戦に対処するための代替戦略を示している。この研究は、ウクライナの経験と知識に基づく詳細な方法論を開発するための基礎を提供する。
国家安全保障と民主主義に対するデジタル脅威が進化する中、この新しいアプローチは世界中の国々にとって貴重な洞察をもたらす。当研究所は、より包括的な研究を発表する予定であり、将来的には各国がデジタル影響作戦に対処する方法を再構築する可能性もある。
次のレポートは後日公開予定である。
なお、本記事については3月5日正午からのランチウェビナーでご報告する予定である。
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