ロシアが仕掛けるAIロンダリング

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AIがロシアのプロパガンダを紹介したり、言語によって異なる応答をして対立を煽っている。そして、恐るべきことにAIは学習用データの汚染に極めて脆弱で、わずか0.001%の汚染で誤答率が上がるうえ、従来のAIのテストで検知できないこともわかっている。ひらたくいうと、現在のAIは情報戦に脆弱であり、容易に攻撃者の武器となる。

今回、Newsguard社がレポートしたのは、すでにロシアがAIに誤った回答をさせることを狙った活動を強化していることだ。その中心にいるのは、2024年の偽情報キングに選ばれたジョン・マーク・ドゥーガンだ。

「The Role of the Media in the Fight against Strategic Disinformation」と題する会議で複数のチャネルを通じてナラティブを拡散することで主要AIモデルをナラティブ拡散の武器にできる、と過去の検証(上位10のジェネレーティブAIモデルの回答の32%にドゥーガンのナラティブが含まれていた)を引用して主張した。「ナラティブ・ロンダリング」と記事では命名しているが、主役はAIなのだから「AIロンダリング」と呼ぶべきだろう。

AIを媒介することでナラティブやデマ、あるいは偏見や差別ももっともらしく見えるうようになる「AIロンダリング」は世界に広がっている。世界のどこにも正しい情報だけで満たされた空間はなく、そもそも「正しさ」は常に更新されるものである以上、存在することはあり得ないし、あってはならない。つまり、汚染された学習用データに脆弱な現在のAIは常に誤った回答をすることになる。

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この記事を書いた人

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表。代表作として『原発サイバートラップ』(集英社)、『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)、『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『ネット世論操作とデジタル影響工作』(原書房)など。
10年間の執筆活動で40タイトル刊行した後、デジタル影響工作、認知戦などに関わる調査を行うようになる。
プロフィール https://ichida-kazuki.com
ニューズウィーク日本版コラム https://www.newsweekjapan.jp/ichida/
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