ドイツの選挙でXとMetaは「ヘイト広告」を許可していた

ドイツ総選挙について:ここまでのおさらい
すでに多くの大手ニュースでも報じられているとおり、2025年2月23日に投開票されたドイツの総選挙では、大幅に得票率を伸ばした極右政党「AfD(ドイツのための選択肢)」が第2党に躍進した。
この選挙では、ロシアによる大規模な偽情報/誤情報の拡散活動が大いに問題視されてきた。ドイツ政府はいくつかの対策を講じたものの、ベルリン裁判所がXに強制していた「研究者へのデータアクセス」さえ、選挙日までに実現されることはなかった。
https://inods.co.jp/news/5395/
この拡散活動においては、とりわけ極右のアカウント群が「AI生成の偽コンテンツ」を投稿して進められてきたことが指摘されている。先日の一田和樹氏の記事では、極右アカウントのAI利用に関するISDの調査報告の結果が紹介された。
https://inods.co.jp/news/5376/
Ekōが報告した「プラットフォーム側の問題」
一方、非営利の消費者監視団体「Ekō(eko.org)」は、ユーザーが拡散する投稿ではなく、「選挙に干渉する『広告』と、それに対するプラットフォーム側の責任」のほうに着目した。そしてEkōは実際に広告を出稿することにより、「総選挙を目前に控えたドイツで、ドイツのユーザーを狙った政治的な広告の掲載を希望されたとき、Meta(Facebook)とX(旧Twitter)はどのような対応をするのか」を調査した。
先に大まかな結果からお伝えすると、MetaとXの両社は、過激なヘイトスピーチの広告や暴力の扇動を煽るような広告すらブロックできていなかった。今回は、この調査について少し詳しくお伝えしたい。
X_Meta_German_national_elections
https://aks3.eko.org/pdf/X_Meta_German_national_elections.pdf
〇Ekōによる調査方法
まずEkōの研究者たちは、MetaとXに新しいアカウントを作成し、調査のために「10件のテスト広告」を作成した。現在のドイツでしばしば見られるような偽情報を含んだ内容で、明白なヘイトスピーチや過激な暴力の扇動があり、またAI生成による画像(モスクやシナゴーグが燃やされている画像や、特定の宗教の信者への憎悪を煽る画像など)が添えられた広告だ。これらの広告はすべてMetaとXの両方のポリシーに違反しており、一部はドイツの国内法にも違反しかねないものだった。
政治的議論の中心の一つとして「移民問題」が挙げられる選挙直前のドイツで、両プラットフォームの広告審査システムが、マイノリティを標的とした憎悪的なメッセージを含む広告を承認するのか、あるいは掲載を拒否するのか。それを調査するため、Ekōの研究者たちは連邦選挙が行われる数日前、ドイツ在住のユーザーを広告の対象に設定し、10件のテスト広告をMetaとXの両方へ出稿した。
〇調査結果
承認と拒否の結果は以下のとおり。
・Xはすべての広告(10件)を直ちに承認し、公開までのスケジュールを組んだ。
・Metaは広告の半分(5件)を12時間以内に承認した一方で、5件の広告の掲載を拒否した。
・Metaが半分の広告を拒否した際には「社会問題、選挙、政治広告に該当する可能性があるため」と説明された。あからさまなヘイトスピーチや暴力の扇動は拒否の理由にならなかった。
承認されたヘイトスピーチの内容は以下のとおり。
・Metaが承認した5件の広告には、イスラム教徒の移民や難民を著しく貶める憎悪的なもの(彼らを「ウイルス」「害虫」「動物」「強姦魔」になぞらえたもの)や、彼らへの肉体的な暴力行為を呼びかけるもの(不妊化する、焼く、強制収容所に収監する、ガス室で処刑する)が含まれていた。また「グローバリストのユダヤのネズミによる陰謀を阻止するため、シナゴーグを焼き払うべきだ」と呼びかける広告なども承認された。
・Xがさらに承認した追加の5件も、やはりイスラム教徒やユダヤ人を標的とした暴力的なヘイトスピーチが含まれた広告だった。より具体的には「ネズミのような移民が」「私たちの民主主義を盗むために」「(我が国へ)押し寄せている」などの表現が用いられ、また「ユダヤ人が欧州の産業を破壊して経済力を蓄積するために、気候変動に関連した嘘をついている」などと示唆する反ユダヤ主義的な中傷も行われた。さらに「SPD(ドイツ社会民主党)は中東から6000万人のイスラム教徒の難民を受け入れようとしている」「左翼が国境を開放しようと試みている」などの虚偽の主張も用いられた。
これらのテスト広告はすべて公開前に研究者たちが削除したため、もちろん実際のMetaやXには表示されていない。別の言い方をするなら、「もしも広告主が削除さえしていなければ」、選挙を目前に控えたドイツのユーザーの端末には、これらのヘイト広告が堂々と表示されていたということになる。
〇AIの「すりぬけ」の問題
本来の調査目的からは少々離れるのだが、今回の調査では、Metaの「AIに関するポリシーへの取り組み」の甘さも確認された。
この調査において、Ekōが作成した10件のヘイトスピーチ広告(テスト広告)にはAI生成の画像が用いられたが、いずれも『人工的に生成された画像である』というラベルは付けられていなかった。Metaは「社会問題、選挙、政治に関する広告にAI画像を使用する場合、その開示を義務付ける」というポリシーを掲げており、さらに「How AI-generated images in ads are identified and labelled on Meta(広告におけるAI生成の画像を、Metaはどのように識別し、ラベル付けしているのか)」という解説のページもある。
https://www.meta.com/en-gb/help/artificial-intelligence/355108217670024/
しかし、Ekōが依頼した広告の少なくとも半数は、なんら弾かれることなく承認されていた。つまりMetaでは、自社のポリシーに違反する広告画像の適切なチェックが行われていなかったようだ。
驚くべきか、驚かざるべきか
今回、Ekōが調査の対象に選んだプラットフォームはXとMetaのふたつだけだった。「イーロン・マスクがドイツの選挙期間にXを利用して、AfDへの支持を公に呼び掛けていること」への批判、および「Metaがヘイトスピーチに関するポリシーを緩和し、第三者によるファクトチェックの廃止を発表したこと」への批判が、調査の背景にあることは間違いないだろう。そして(おそらくは)Ekōが懸念したとおり、これらのプラットフォームでは極右的、暴力的なヘイトスピーチを含む広告が選挙直前にも承認されていた。
しかし、そのこと自体に驚いた人は、いまやほとんどいないだろう。さすがに「移民を強制収容所に入れろ/ガス室で殺せ」「シナゴーグを焼き払え」という広告まで看過された点には驚いたとしても、いまのMetaやXが向かっている方向性については、何ら驚くべきところがない。
この調査では、XとMetaの両社が「あきらかに自社のポリシーに違反しているヘイト広告をブロックできず、そのまま承認していた(言い方を変えるなら、選挙に影響を及ぼすようなタイミングに少数派へのヘイトやデマが含まれた広告で金儲けをしてしまった)」という点も暴かれている。しかし、この問題についても「いまさら」という感想を持たれるかもしれない。「もはや両社はヘイトの規制など少しも望んでいないので、単にポリシーの書き換えのほうが間に合っていないだけだ」と考える人もいるだろう。
Ekōは報告書の中で、両社の営業がEUのDSA(デジタルサービス法)に違反する可能性を指摘しながら、次のように記している。
「問題の根底には、これらのプラットフォームの有害なビジネスモデルがある。デジタル広告の収入に依存し、コストではなくエンゲージメントで推進されるモデルだ。こういった広告のシステムは『注目度と収益』を最大限に広げるべく構築されているため、ヘイトスピーチや偽情報、暴力の扇動を抑制する動機がほとんどない。 MetaとXがセーフガードを解体し続けている現在、EUが両社に対してDSAへの準拠を強制し、その責任を負わせることで『害を増幅して利益を得るよう設計されたビジネスモデル』の世界的な影響を抑制することが不可欠だ」
それはもっともな意見であるように思われる。しかし先述のとおり、すでにドイツのベルリン地方裁判所は、Xが「DSAに違反している」と判断し、同社に対してデータアクセスの提供を命令している。そうであるにも関わらず、Xはアクセスの提供を拒否しつづけているため、もはやDSAの有効性が疑われているような状況だ。
このような流れの中でドイツの総選挙は投開票され、多くの人々が予想したとおり(そしてイーロン・マスクが望んだとおり)極右政党のAfDが大躍進を遂げた。今後、さまざまな国で大規模な選挙が行われるたび、大手SNSプラットフォームの両社は偽情報やヘイトの拡散にどのような対応をしていくつもりなのか、そしてXとMeta以外のプラットフォームはどのような方向へ舵を取るつもりなのか。それらのすべてを悲観する意見も、決して少なくはないだろう。
参考資料
On eve of German federal elections, Meta and X green light extreme far-right and violent hate speech ads targeting voters
https://aks3.eko.org/pdf/X_Meta_German_national_elections.pdf
https://www.adweek.com/media/meta-scraps-fact-checking/
https://techcrunch.com/2025/02/21/meta-x-approved-ads-containing-violent-anti-muslim-antisemitic-hate-speech-ahead-of-german-election-study-finds/
https://insidetelecom.com/meta-hate-speech-approved-with-x-for-german-elections/
Metaによる規定「ヘイト行為」
https://transparency.meta.com/ja-jp/policies/community-standards/hateful-conduct/
Metaによる規定「暴力と扇動」
https://transparency.meta.com/ja-jp/policies/community-standards/violence-incitement/