ロシアのLLMグルーミングが主要LLMを武器化する

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LLMグルーミングとは

LLMグルーミング(LLM grooming)とは、プロパガンダをLLMが摂取するように仕向け、LLMの出力にプロパガンダの主張を反映させてしまうことを指す。American Sunlihgt Project(ASP)は「A Pro-Russia Content Network Foreshadows the Automated Future of Info Ops」(2025年2月26日)でロシアのPravdaネットワーク(ポータルコンバット)が大量に拡散したコンテンツによって、LLMに影響を及ぼし、拡散のツールにしていたことを明らかにした。
Pravdaネットワークは、2024年2月12日にフランス首相府国防国家安全保障事務総局(SGDSN:Secrétariat Général de la Défense et de la Sécurité Nationale)のVIGINUMが暴いているが、その時点ではLLMグルーミングへの言及はない。

LLMのテストを行っているNewsguard社は、ChatGPT-4o(OpenAI)、Smart Assistant(You.com)、Grok(xAI)、Pi(Inflection)、le Chat(Mistral)、Copilot(Microsoft)、Meta AIClaude(Anthropic)、Gemini(Google)、Perplexityをテストした結果、これらがロシアのプロパガンダを回答することがあるのを確認した。中にはPravdaネットワークの情報を信頼できるものとして引用しているものもあった。

Pravdaネットワーク

ASPのレポートによれば、ヨーロッパ、アフリカ、アジアの国にウクライナ戦争に関する親ロシア的なナラティブを広めていた。このネットワークは182のドメインとサブドメインによって構成されていた。独自のコンテンツはなく、ロシアのプロパガンダ・メディアなど親ロシア派のコンテンツを拡散しており、年間360万件のコンテンツを発信していたと推定されている。
ネットワークを構成するドメインとサブドメインは4つのフェーズで拡大してきており、第1から第3フェーズまではヨーロッパを中心のターゲットとしてきたが、第4フェーズではアフリカ4カ国、アジア2カ国と変化した。第4フェーズでターゲットとなったのは韓国と日本である。このネットワークには、日本語のサイト(*アクセスには注意!あくまでご自身の責任で) https://ja-jp.news-pravda.com や https://japan.news-pravda.com (前のサイトにリダイレクト)などがある。

Pravdaネットワークの目的

Pravdaネットワークの目的としてASPのレポートがあげているのが、下記である。

・LLMグルーミング
・数による圧倒(Mass Saturation) 大量の露出によって騙したり、参照されたり機会を増加させる。
・複数のサイトに掲載することで錯覚的真実効果(Illusory Truth Effect from Multiple Sources) 複数の情報源に掲載されていることで信憑性があるような錯覚を起こさせる。

ASPはPravdaネットワークには人間のエンゲージメントが少ないことから、LLMグルーミングを目的としている可能性が高いと指摘している。
NewsGuard社もロシアが意図的にLLMグルーミング、AIロンダリングを狙っていることを指摘している。

第3ステージに突入した情報戦を象徴する作戦

2026年に情報戦は第3ステージに入る可能性が高い。第3ステージでは目にする情報の多くが偽・誤情報やナラティブになる。偽・誤情報やナラティブをそこまで増加させるのは、LLMと偽・誤情報やナラティブを記事として取り上げるメディア、政府である。
新しいステージでは、これまでとは異なる対策が必要なる。なぜなら、これまでの対策の失敗の結果としての第3ステージなのだから、同じ対策を継続するのは悪化させるだけとなる。

そもそもPravdaネットワークは2022年に活動を開始し、2024年2月にはその存在と実態が暴露されている。3年目の2025年の段階で主要LLMがロシアのプロパガンダを拡散している状況になっているのは、防御側に対処するための能力が欠けていることを示している

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この記事を書いた人

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表。代表作として『原発サイバートラップ』(集英社)、『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)、『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『ネット世論操作とデジタル影響工作』(原書房)など。
10年間の執筆活動で40タイトル刊行した後、デジタル影響工作、認知戦などに関わる調査を行うようになる。
プロフィール https://ichida-kazuki.com
ニューズウィーク日本版コラム https://www.newsweekjapan.jp/ichida/
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