LGBTQへの盗聴はフリー トランプ時代の米国土安全保障省

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これまで多くの大手メディアが報じてきたとおり、第二次トランプ政権下の米国では「DEI(多様性、公平性、包摂性)の廃止」に向けた動きが急速に進められている。そして昨今では「米国土安全保障省(DHS)が、『性的指向や性自認のみを基準として、市民に諜報活動を行うこと』を認可したようだ」という噂も囁かれるようになっていたのだが、その噂はどうやら事実だったことが判明した。

DHS ends ban on intelligence activities targeting people for sexual orientation, gender identity _ Snopes.com
https://www.snopes.com/fact-check/dhs-surveillance-lgbtq/

何が判明したのかを、より正確に記すなら以下のようになる。

DHSのインテリジェンス分析局(I&A)のポリシーマニュアルには、諜報活動のガイドラインを設定するセクションがある。このセクションには「『人種・民族・宗教・性的指向・性自認・出生国・国籍・障害』のみに基いて諜報活動を行うこと」を禁止すると記されていた。しかし、この一文からいつの間にか『性的指向・性自認』の言及が削除されていた。つまり現在のDHSは「LGBTQの当事者だから調査したい」というだけの理由で諜報活動を行えるようになった、ということになる。

Office of Intelligence and Analysis Policy Manual 2025(アーカイブ)
https://web.archive.org/web/20250127121246/https://www.dhs.gov/sites/default/files/2025-01/Office%20of%20Intelligence%20and%20Analysis%20Policy%20Manual.pdf
Office of Intelligence and Analysis Policy Manual 2025(現在マニュアル)
https://www.dhs.gov/sites/default/files/2025-02/Office%20of%20Intelligence%20and%20Analysis%20Policy%20Manual-508.pdf

※ 79ページのGeneral Requirements (a) (iii) には以下の表記があった。
based solely on an individual’s or group’s race, ethnicity, gender, religion, sexual orientation, gender identity, country of birth, nationality, or disability.
しかし新しいファイルの同じ箇所からは「sexual orientation」と「gender identity」の二つが消えている

修正されたマニュアルは、以前のマニュアルと見た目がまったく同じであるうえ、どちらも「Version 1.0」と記されている。さらに修正されたという表記もなく、冒頭に記された日付(2025年1月16日)も書き換えられていないため、どのようなタイミングで、どのような経緯で修正されたのかは不明だ。しかしInternet Archiveに残されたアーカイブを見ると、1月27日までは前バージョンのポリシーhttps://web.archive.org/web/20250000000000*/https://www.dhs.gov/sites/default/files/2025-01/Office%20of%20Intelligence%20and%20Analysis%20Policy%20Manual.pdf)が使われていたことが分かる。そして、遅くとも2月20日には修正版https://web.archive.org/web/20250222173757/https://www.dhs.gov/sites/default/files/2025-02/Office%20of%20Intelligence%20and%20Analysis%20Policy%20Manual-508.pdf)に差し替えられていた。

I&Aの諜報活動は、国内の対象者(米国市民や米国在住者)に関与することが多く、過去にも人権侵害を行ってきた歴史がある。つまり彼らの活動範囲のハードルが下がれば、米国の一般市民に対する人権侵害のハードルも下がる。もちろん今回の変更についても深刻な人権侵害への懸念が示されており、「今後のDHSは、LGBTQ+に該当しているだけの米国市民も監視するのでは」などといった不安の声も寄せられている。

DHS Scraps Ban on Surveillance Based on Sexual Orientation (1)
https://news.bgov.com/bloomberg-government-news/trumps-dhs-loosens-sexual-orientation-based-surveillance-policy
DHS quietly axes ban on surveillance based on LGBTQ identity
https://www.advocate.com/politics/dhs-allows-surveillance-sexual-orientation

とはいえ、ブルームバーグなどが報じているように「トランプ政権は2月、こっそりとDHSのポリシーマニュアルを書き換えていた」といった表現をするのも、あまり適切ではないように感じる。なにしろ「DEI路線からの脱却」を公約のひとつとして堂々と掲げてきたトランプは、大統領に就任した初日から「連邦政府におけるDEIプログラムの終了」を命じる大統領令に署名している。さらに現在のDHSは、あのクリスティ・ノーム(反LGBTQ+、反中絶、犬殺しなどで知られるお騒がせな元サウスダコタ州知事)が長官を務めている。あまりに多くのことが同時進行しているため、すでに忘れてしまっている人も多そうだが。
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/01/ending-radical-and-wasteful-government-dei-programs-and-preferencing/

それらを考慮するなら、今回のポリシー修正は、現政権が公然と推進している「反LGBTQ+の取り組み」のほんの一端でしかなかったのではないだろうか。この程度の修正を隠すつもりもなく、わざわざ記録するつもりもなく、修正した事実を説明する気もなかっただけと考えるほうが自然かもしれない。

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この記事を書いた人

やたらと長いサイバーセキュリティの記事ばかりを書いていた元ライター。現在はカナダBC州の公立学校の教職員として、小学生と一緒にRaspberry Piで遊んだりしている。共著に「闇ウェブ」 (文春新書) 「犯罪『事前』捜査」(角川新書)などがある。

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