ロンドン市による市民を支援した包括的レジリエンス向上策の検証

ロンドンのShared Endeavour Fundは非民主主義的活動に対する市民のレジリエンスを向上させる包括的な支援策である。その中には当然偽・誤情報対策やリテラシー向上策も含まれている。お題目として包括的な対策をあげられることは多いが、それが実施されることは少なく、評価検証まで行うことはめったにない。完全というには課題も多いが、Shared Endeavour Fundは包括的な対策を実施し、評価検証まで行っている稀有な例であり、さらにその中心にあるのが市民という点で注目に値する。
包括的な対策が必要という主張をする政府は多いもののの、具体的な包括的な施策の立案、実施、評価検証まで行えている政府はほとんどない。もちろん日本も例外ではない、というか遅れている。
非民主主義的活動に対する市民のレジリエンスを向上させる包括的な支援策
ロンドン市長がリードするShared Endeavour Fundは、次の4つの戦略目標を達成するために市民活動を支援している。
1.人種差別的、不寛容、憎悪に満ちた、過激な主張を持ったり、受け入れたり、行動したりする市民を減少させる
2.多くのロンドン市民が、人種差別的で不寛容な憎悪に満ちた過激な主張やコンテンツに、積極的に自信をもって安全を確保したうえで挑戦するようにする
3.憎悪に満ちた過激イデオロギーを支持したり、過激派に勧誘されたりして過激化するロンドン市民は減少させる
4.多くのロンドン市民のネット上の偽・誤情報や過激化などに対するレジリエンスを向上させる
近年顕著になってきた非民主主義的活動に対する市民のレジリエンスを向上させる包括的な支援策と言える。
最初のShared Endeavour Fundは、2021年6月に成功裏に終了し、2021年10月から2022年6月まで第2回が実施された。第2回は60万ポンド(約1億円)の資金が19の市民プロジェクトに付与された。ISDは委託を受けて第2回のShared Endeavour Fundの評価検証を行い、そのレポートを公開した。
こうした市民を支援する形での包括的な対策は、必要とされるものであるにもかかわらず、あまり実施されることはなかった。たとえば昨年イギリスで起きた暴動では市民の自主的な活動が反移民の暴動を鎮静化するうえで重要な役割を果たしていた。しかし、メディアも政府も市民の活動についてはほとんど取り上げなかった。
日本では災害が起きるたびに偽・誤情報がメディアにとりあげられ、政府も深刻な問題であると表明しているが、実際には災害時に役立つ情報や偽・誤情報や偽・誤情報への注意喚起の方が多い。
こうした市民による自主的な活動はメディアや政府には無視される一方、リテラシー向上など市民の啓発が必要としていたが、啓発が必要なのは実態を確認せずに根拠のない対策を繰り返すメディアと政府だ。
活動内容と評価
対象となった19の団体がとりあげたテーマは、偏見/差別(89%)、人種差別(58%)、極右過激主義(47%)、イスラム過激主義(42%)、向社会的行動の奨励(47%)、デジタル・リテラシーと偽・誤情報(21%)となっている(テーマが重複しているため合計すると100%を越える)。
これらの活動は、5歳から18歳の学生31,707人、一般社会人1,127人、実務家、教師、ユースワーカー、コミュニティ・リーダー298人を含む、ロンドン29区の33,132人にリーチした。一般的にリーチが高い(参加者数が多い)と、活動強度が低い(接触時間が短い)傾向があり、リーチが低い(参加者数が少ない)と活動強度が高い(接触時間が長い)傾向があった。
全体の79%のプロジェクトが目標をまたは上回ったと評価され、第1回の61%を大幅に上回った。戦略目標1から4のいずれも目標を達成していたが、偽・誤情報やリテラシーと関係する戦略目標4については、プレバンキングとリテラシーに焦点を当てたプロジェクトが成果をあげていた。