オンラインに広がる右派ネットワーク

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米国の非営利団体「Media Matters for America(MMfA)」が2025年3月14日に発表した調査結果によると、米国のオンライン番組のエコシステムは圧倒的に右派が支配しており、その偏りは政治的な番組だけでなくコメディやスポーツなどの「政治的ではない番組」にも浸透しているという。

The right dominates the online media ecosystem, seeping into sports, comedy, and other supposedly nonpolitical spaces
https://www.mediamatters.org/google/right-dominates-online-media-ecosystem-seeping-sports-comedy-and-other-supposedly

この調査はYouTube、Spotify、Rumble、Twitch、Kick、Facebook、Instagram、TikTokの八つのプラットフォームで「ニュースや政治を扱っているオンライン番組」あるいは「ニュースや政治に関連する人物をゲストとして招いているオンライン番組」を対象として行われた(※)。MMfAが特定した計320の人気番組(右派191、左派129)のデータを分析したところ、さまざまな側面で右派の番組が左派の番組を圧倒していた。

※Apple Podcastsはフォロワー数を公開していないため、ここで提供されている番組は今回の集計に含まれていない。

目次

調査報告の主な内容

●フォロワー数の内訳
調査対象となった320の番組が獲得しているフォロワー数(登録者数)の総数は全プラットフォームで約5億8460万人。そのうち右派のオンライン番組は約4億8060万人、左派は約1億400万人。右派は左派の約5倍だった。

●視聴回数は右派が二倍強
番組の動画の総視聴回数は、右派が計650億回、左派が315億回だった。やはり右派が二倍を超えているが、フォロワー数ほどの大きな偏りではなかった。

●トップコンテンツの偏り
プラットフォーム全体でのフォロワー数が最も多いオンライン番組トップ10のうち9つは右派で、それらのフォロワー数の合計は1億9700万人以上だった。
トップ10に食い込んだ唯一の左派番組はTrevor Noahの「What Now?」で(6位)、プラットフォーム全体における同番組のフォロワーと登録者は計2110万人だった。

人気番組のフォロワー数(赤が右派、青が左派)、「Media Matters for America(MMfA)」(2025年3月14日)より
https://cloudfront.mediamatters.org/styles/scale_w1024/s3/static/D8Image/2025/03/06/onlineshows-mark5.png?itok=z1lKo4K0

●エンタメ系番組における偏り
320の人気番組の3分の1以上が、自身のコンテンツを「非政治的」だと自認していたが、そのうち72%は右派に偏っていると判断された。これらの番組のカテゴリーはコメディやエンターテイメント、スポーツなど非政治的なジャンルに分類されている。

●コメディ番組の強さ
それらの中でも、とりわけ「コメディに分類されている右寄りの番組(計15番組)」は人気が高く、計1億1750万人のフォロワー(登録者)を抱えていた。この数は、調査対象となった全番組の総フォロワー数の20%に該当している。このカテゴリーには「The Joe Rogan Experience」「This Past Weekend with Theo Von」「Full Send Podcast」などの番組が含まれている。

●保守系動画プラットフォームの利用
右派の番組は、保守的なコンテンツに特化した動画プラットフォーム「Rumble」を利用することで視聴者を拡大し、数百万人の登録者を獲得している。

米選挙とポッドキャスト


2024年の米国の選挙は、候補者たちが米国最大級のポッドキャスト番組に出演することによって流れが変わる可能性が指摘されていた、。Bloombergはそれを「ポッドキャスト選挙(podcast election)」と呼び、その単語は多くのメディアに共有された。
https://www.bloomberg.com/news/newsletters/2024-10-17/why-the-2024-us-presidential-election-is-playing-out-via-top-podcasts?srnd=undefined

たとえば次期大統領候補だったトランプは当時「The Joe Rogan Experience」に出演していた。The Joe Rogan Experienceは先述のフォロワー数ランキングでも一位に君臨している超人気番組で、司会のジョー・ローガンはトランプ支持を明白に表明している。

そして選挙後に開かれた勝利祝賀パーティーでは、トランプ支持者として知られる総合格闘技団体UFCのCEOダナ・ホワイトが「トランプの勝利に貢献した数人のポッドキャスター」たちを称賛しており、「最後に、偉大でパワフルなジョー・ローガンに感謝したい」と述べた。(ちなみにザッカーバーグのMetaは2025年1月、ホワイトをMetaの新たな取締役のひとりに加えると発表している)
https://about.fb.com/news/2025/01/dana-white-john-elkann-charlie-songhurst-meta-board-of-directors/

候補者が有権者にリーチしようとする際、一昔前までは大手テレビ局の討論番組がほとんど唯一の媒体だった。そしてオバマ政権以降、ソーシャルメディアも有力なツールとして利用されるようになった。現在では、知名度の高いオンライン番組がそれらに代わりつつあるのかもしれない。いまや一部の候補たちは、CNNやFox Newsなどの主要メディアの番組よりも、人気のオンライン番組で行われるニッチな対談を優先しはじめている。

米国では大手メディアに右派左派の明白な偏りがあるが、それでもテレビ番組で候補者を扱う場合、「選挙前の候補者には平等な出演時間が与えられるべき」というFCCの規定がある。しかしオンライン番組の場合、そのような非対称性を正すための取り組みはあるのだろうか?

その答え合わせにも思われるような今回の調査報告の中で、MMfAは以下のように指摘している。

・ポッドキャストやオンライン番組は以前よりも人気が高まっており、信頼されるニュースソースとして考えられている。報告によれば、ポッドキャストを毎月聴く人の数は2016年以降で倍以上に増えた。2023年のPew Researchの調査によると、ポッドキャストでニュースを聞く人の87%が「そのニュースはほぼ正確であること」に期待しており、また31%は「他のニュースソースよりもポッドキャストを信頼している」と答えた。

・Edison Podcast Metricsの報告によると「2024年の選挙に先立ち、これらの番組に出演することによって、トランプは週平均2,350万人の米国成人の視聴者にリーチできたが、一方のハリスは640万人だった」という。

・9人の著名なYouTuber(アディン・ロス、ジョー・ローガン、ローガン・ポール、テオ・フォン、パトリック・ベット・デイビッドなど)が提供している2,000本以上の動画を視聴・分析したBloombergは、次のように指摘した。
「YouTuberたちは米国人男性を『彼らの権力を剥奪しようとする民主党の活動の犠牲者』であると表現していたが、そのYouTuberたちは、誰ひとりとして自らを『政治評論家』と称していない」
How 9 Popular YouTubers Helped Trump Win a Second Term
https://www.bloomberg.com/graphics/2025-youtube-podcast-men-for-trump/


出典と参考資料

ここではMMfAが行った調査結果の主要な部分しか紹介していない。より詳しい内容を知りたい方、また調査における番組の選出方法や集計方法、右派左派の選定方法などについて知りたい方には原文を確認していただきたい。

The right dominates the online media ecosystem, seeping into sports, comedy, and other supposedly nonpolitical spaces
https://www.mediamatters.org/google/right-dominates-online-media-ecosystem-seeping-sports-comedy-and-other-supposedly

以下は「ポッドキャスト選挙(podcast election)」について詳しく知りたい方のためのリンク。

Why the 2024 US Presidential Election Is Playing Out Via Top Podcasts
https://www.bloomberg.com/news/newsletters/2024-10-17/why-the-2024-us-presidential-election-is-playing-out-via-top-podcasts

The Presidential Election Proved The Power of Podcasts
https://www.adweek.com/media/how-podcasts-emerged-as-vehicles-of-mass-reach-niche-audiences-and-cultural-influence/

After the first ‘podcast election,’ the medium is likely to continue playing a role in future campaign cycles
https://www.poynter.org/reporting-editing/2024/podcast-role-presidential-election-results-trump-rogan/

Why experts say this election showed the power of podcasts
https://www.thecurrent.com/political-presidential-election-2024-podcasts

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この記事を書いた人

やたらと長いサイバーセキュリティの記事ばかりを書いていた元ライター。現在はカナダBC州の公立学校の教職員として、小学生と一緒にRaspberry Piで遊んだりしている。共著に「闇ウェブ」 (文春新書) 「犯罪『事前』捜査」(角川新書)などがある。

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