財務省解体デモ:主催を限定しないデモが持つ勢いとリスク

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大手メディアも報道する財務省解体デモ

今、財務省前で行われているデモに注目が集まっている。2月21日のデモをテレビ東京が報じたのを皮切りに、NHKフジテレビ朝日新聞東京新聞産経新聞など、多数の大手メディアがこのデモを取り上げるようになった。見出しに並ぶデモの名称は「財務省解体デモ」。3月14日に行われたデモでは参加者数が1,000人を超え、開催数もかなりの数に上ることから、近年稀に見る規模と勢いを持つ社会運動として注目されているようだ。

デモが盛り上がってから多くのメディアが報道したため、大規模なデモが突然発生したように思われるかもしれないが、財務省前でのデモは以前から行われており、当初から1,000人規模だったわけではない。また、単一の団体が財務省前のデモを繰り返しているわけではなく、多様な背景を持つ複数の個人・団体が別個にデモを主催しており、名称も統一されていない。「財務省解体デモ」の他に「財務省前デモ」もあり、名称としては後者のほうが先行していた。本稿ではこれらのデモの経緯と主催を簡潔に記載し、その後に考察を行いたい。

2023年から行われていた「財務省前デモ」と、2024年末から実施され始めた「財務省解体デモ」

財務省前でのデモ自体は2023年から実施されてきた。積極財政派の経済評論家、池戸万作氏による「財務省前デモ」である(後述の財務省解体デモが実施され始めてからは「元祖!財務省前デモ」とされている)。積極財政派による財務省批判は以前から存在しており、珍しいものではない。このデモも財務省を批判しているものの、池戸氏自身が投稿しているように大勢の人を集められてはいなかった。財務省前に人が集まり始めたのは、「財務省解体」という言葉が拡散してからである。

明確に「財務省解体」と銘打ったデモが行われたのは、2024年12月27日のことだった。主催は、ごく小規模な市民団体『風の吹くまま市民団体』の「ころん」というアカウント名の女性である。筆者が配信を見るところ、実際のデモ参加者は多めに見て100人といったところだが、Xにおけるこのデモの告知投稿は1.4万RP、152万PVを記録し、かなり拡散されていた(筆者もこの時期の拡散でデモの存在を認知した)。この主催者はその後も2025年1月4日、1月31日と立て続けにデモを行い、そのたびに「財務省解体」という言葉が拡散されていった。ただし、この時期のデモの配信を見たところ、参加者は多くとも200人程度であり、大勢の人が詰めかけるような状況ではなかった。

様々な個人・団体が続き、地方でも開催されるようになる

2月になると、上記の2者以外によるデモが実施されるようになる。2月15日にはその投稿から『風の吹くまま〜』のデモに関わっていたと見受けられる男性による「財務省解体&選挙に行こうデモ」が行われた。その後の連休を控えた金曜日の2月21日には『新生民権党』(元国民主権党(国民主権党は、「コロナはただの風邪」という主張で2020年の東京都知事選を戦っていた平塚正幸氏による政治団体)で、2023年の川崎市議会選に出馬した男性が代表の政治団体)による「財務省前デモ」が行われ、ここで1,000人規模の参加者数となりテレビ東京で報道された。続く連休の22日には関西で積極財政を主張する街宣活動を行っていた団体による大阪財務局前のデモ(こちらもその投稿から、年末年始の財務省解体デモに関わっていたようだ)、23日には『風の吹くまま〜』による博多駅前でのデモと、地方での開催も広がった。

さらにその後は、『ラエリアン・ムーブメント』(「地球外から飛来したエロヒムが、遺伝子操作によって人類を作った」という宇宙人信仰を持ち、90年代後半に人間のクローンを作ったと発表したため世界的なニュースとなった宗教団体)日本代表の女性、『頑張れ日本!全国行動委員会』(『日本文化チャンネル桜』社長の水島総氏が幹事長の保守系団体)も財務省前でデモを行うようになり、様々な団体が入り混じる状態となっている。

今のところ最大規模となったのは3月14日のもので、東京の財務省前では参加者数が1,000人を超えた他、全国各地でデモが行われた。14日のデモは特定の団体が全国に主催要員を派遣していたわけではなく、それまでのデモに触発された個人が連絡を取り合って主催していた。このように主催が限定されておらず、誰でも同一名称を利用できる形態のデモはSNSでの情報拡散と相性が良く、社会運動への参加経験がない人々にとっても参加しやすいと考えられる。その一方でこのようなデモが抱えるリスクについては後述する。

思わぬ急拡大が招いた副作用

初回の開催から2ヵ月ほどで1,000人規模にまで拡大した財務省解体デモだが、週刊現代の取材にある通り、ここまでの拡散は主催者も予想していなかったようだ。池戸氏が以前から行っていた財務省前デモにはあまり人が集まっておらず、「財務省解体デモ」が生まれてから人が集まりはじめたことを考えると、前述の記事でころん氏が指摘している通り、「財務省解体」という刺激的なフレーズの効果が大きいと筆者も考えている(あまりにこの言葉が広がってしまったために池戸氏のデモも「財務省解体デモ」と拡散するアカウントがあり、池戸氏が訂正している投稿もあった)。

「財務省解体」という言葉の急激な拡散は、デモの認知を広げた一方で思わぬ副作用も生んでいる。筆者は積極財政支持という立場や財務省批判も一つの意見として尊重されるべきだと考えている。また、デモに参加している人々の多くは現状への純粋な抗議として声を上げていると見ているが、その上で言及したいのが東京大学大学院工学系研究科の鳥海教授による検証である。鳥海教授は2025年3月10~15日までに投稿されたX上のポストを検証し、「財務省解体デモに関する投稿をポストしたトップ100インフルエンサーの52%が,過去に偽情報や誤解を招く投稿を行ったことがあることが分かった」と結論付けている。気になる箇所もあるためこれをそのまま受け取るわけではないが、筆者が財務省解体デモを知ったのも、陰謀論インフルエンサーを多数フォローしているタイムラインに告知が流れてきたことがきっかけであった。前述記事の分析対象は3月に入ってからの投稿だが、それ以前から財務省解体デモは陰謀論インフルエンサーによって拡散されており、リポスト数の多い投稿を確認すると、様々な陰謀論を普段から発信しているアカウントが目に付く。実際のデモ参加者の内訳は確かめようがないが、少なくともX上での拡散においては陰謀論インフルエンサーの拡散力が寄与してしまっている。

このため、財政政策批判を中心としている人々からすれば理解のし難い言説が出回る状況も生まれている。例えば、3月14日のデモ後に拡散した言説に「13京円もの資産を財務省が隠している」というものがあり、2万を超えるRP数を記録している投稿もある2025年度の日本の一般会計予算が約115兆円であることを考えれば、実に約113年分という途方もない金額である。この言説の拡散には、主催者の一人も「そんなとんでもない主張はしていない」と困惑している様子が見られた。財務省解体デモが陰謀論インフルエンサーの周辺にも浸透したため、主催が認められないような言説が出回ってしまった格好だ。その他にも、Xのプロフィールヘッダーにハーケンクロイツを一部隠したような画像が含まれるアカウントが、ユダヤ教を悪魔化する文言で「財務省解体デモ」を主催・実行しており、これに他の回の主催に近い人物が戸惑っている様子も見られた。このように、陰謀論インフルエンサーは拡散力を持っている一方で、他の主催者が狼狽するような言説も拡散してしまい、全体のイメージを悪化させかねないリスクをはらんでいる。

「令和の百姓一揆」との比較

このように、財務省解体デモは盛り上がりを見せている一方で賛同者の主張が制御されておらず、各々の意識に齟齬が発生しはじめているように見受けられる。そもそも、財務省解体デモには主張を制御する主体が存在していない。これが、「SNSでキーワードが拡散し、各地から有志が集うが統一主体が存在しない」デモが抱えるリスクである。「財務省解体」という言葉で集まってはいるものの、主催者・団体は多岐にわたり、またその主張や要求が整理・統合されて特定の場所に明記されているわけではない。このため外部からすると何が具体的に要求されているか分かりづらく、また参加者・賛同者も各自の主張を個別に訴えているため、統一感を維持するのは難しくなっていく。

ここで比較したいのが、財務省解体デモと同じく今年に入ってから注目を集めてきた「令和の百姓一揆」である。令和の百姓一揆は、循環型農業普及のNPOやTPP反対運動などの活動を行ってきた菅野芳秀氏を代表とする「令和の百姓一揆実行委員会」によって実施されている運動である。また、運動の中心人物としては、元農水大臣である山田正彦氏の存在が大きい。これまでの主な活動としては、2月18日に実施された院内集会と、3月30日に行われたデモがある。後者のデモは都内を30台のトラクターが行進し、その後に人のデモ行進も行われた。主催者発表ではデモ行進で3,200人、沿道を入れれば4,500人という大規模なものだったが、実はこちらも筆者の陰謀論観察タイムラインでよく見かけており、財務省解体デモと同様に陰謀論インフルエンサーの投稿が大量にRPされていた。ところが令和の百姓一揆では主催が困惑するような過激な主張が拡散している印象は薄く(陰謀論インフルエンサーの拡散も「農家が立ち上がった」「日本の農業を守れ」程度であまり強い主張はない)、財務省解体デモよりも全体としての統率が取れている印象だ。

その理由としては、「令和の百姓一揆」は実行委員会が主導しており、主催の名称と運動の名称が強く結びついていることがまず挙げられる。このため他の団体が同一の名称を使って独自に運動を行うハードルが高い。また、その主張も「私たちは、『農家が生活できる欧米並みの所得補償』を国に求めていきます」と明記されており(その是非はさておき)分かりやすい。主催団体の統一と要求の明確化は、運動主旨とは無関係の主張を抑制しやすくしており、「農業や食を守ること以外の主張は禁止、日章旗や旭日旗など誤解を招く内容も禁止」の旨、デモの注意書きに記載することが可能となっていた。さらに、デモ会場には農業団体の幟が多く掲げられており、農業関係者のデモであることが見た目にも印象付けられた。ただし、所得保障を求めている点や、「時給10円」という数字を繰り返しアピールしていることなどについて、現役の農家から異論や批判の声が上がっていることを付言しておく。

このデモには、2024年に大規模なWHO脱退集会・デモを繰り返し実施してきた団体も参加していたが、梯団の1つにまとめられていた。筆者もデモを見ていたが、農業団体の幟が目立つ梯団が通り過ぎていく中、WHO関連の幟が流れてくる様子には唐突感があった。沿道から見ていた人々からすれば、「農業関係者のデモ行進に、なぜか毛色の違う団体が混じっている」印象を受けたことだろう。主催からすれば、主旨にそぐわないことを主張させないように制御した上で、参加人数は上積みできたというところではないだろうか。

規模の拡大を狙った先に

財務省解体デモに話を戻すと、次の大きな動きとしては、4月29日に「グローバリストの支配する財務省・厚労省等を今のままなら解体せよ」デモ・集会が予定されている。これは、日比谷公園〜銀座でのデモ行進、国会前・厚労省前・財務省前での街宣集会、四谷区民ホールでの集会と、長時間に渡って様々な取り組みが行われる大規模なものだ。前述のころん氏も登壇予定だが、元々は昨年第1次〜第3次国民運動として行われてきたWHO脱退デモ・集会の続きとして企画されていたものであり、そこに財務省解体のトレンドを取り入れた形だ。WHO脱退側も昨年は1万人規模の運動を成功させており、それぞれが人数拡大のために合流しているものと見受けられる。

一方、その名称には財務省だけではなく厚労省も解体対象として記載されており、外部からはさらに主張の要点が分かりづらくなっている。現状は新しい運動への期待感で人が集まっているが、主張が整理・統一されていないため、現実的にどのような社会が実現すれば参加者の不満が解消されるのかは依然として曖昧だ。今後「厚労省解体」という別個のテーマと接近すれば、人数の拡大や政府への訴求の上で重要な、あくまで生活負担への抗議を主な動機として参加している人々が運動の意義を見失って離れる可能性もある。そうした人々が去った後に残るのは、「財務省や厚労省を解体すれば、理想社会がやってくる」ような想像力に駆動された、地に足のついた主張というよりはどこか「今、ここではないどこか」への欲求が強い人々だろう。そうした空間では、過激な主張や陰謀論が蔓延ることとなる。果たして財務省解体デモは、このまま規模を拡大して政策の変化を導き、参加者に生活実感の改善をもたらすことができるのだろうか。

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この記事を書いた人

陰謀論を中心に執筆活動を行うライター。自身がマルチ商法集団の拠点に誘い込まれたことからライター活動を開始し、そこで利用される思想との関連からオカルト・スピリチュアル・陰謀論についても記事を執筆。著書に『あなたを陰謀論者にする言葉』(フォレスト出版)、『危険だからこそ知っておくべきカルトマーケティング』、共著に『コンスピチュアリティ入門』(創元社)、『カルト・オカルト』(あけび書房)がある。

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