トランプとフェイクニュースの親和性

トランプ大統領がインサイダー取引?
アメリカ上院議員の民主党幹部より、トランプ大統領の関税政策の方針転換についてインサイダー取引や市場操作に関与したか、証券取引委員会に調査を求める書簡が出された。
トランプ政権による関税政策の急激な方針転換は、市場の乱高下を引き起こしている。
それが意図的なもので、大統領に近しいものが事前に知っていれば、株取引で大きな利益を出すことができたからだ。
実際に大統領がインサイダー取引や市場操作をしていたかは不明だが、本人にその気がなくても、その取り巻きが事前に得た情報で多額の利益を得ることは可能だっただろう。
ここまで急速かつ極端な関税を課した大統領はいなかったからだ。
民主党、トランプ大統領の関税の一時停止におけるインサイダー取引の調査を要求
その結果、民主党がトランプ大統領の関税の一時停止におけるインサイダー取引の調査を要求するまでの事態となっている。
Democrats call for insider trading investigation over Trump’s tariff pause
https://www.theguardian.com/us-news/2025/apr/11/trump-tariffs-insider-trading-investigation
アメリカの相互関税
現在、トランプ大統領による大統領令が世界に猛威を振るっている。
中でもインパクトが大きいのが関税に関するものだ。
アメリカの貿易赤字の原因が国家間の構造的不均衡にあるとし、不均衡の是正を訴えて以下の大統領令を出した。
Regulating Imports with a Reciprocal Tariff to Rectify Trade Practices that Contribute to Large and Persistent Annual United States Goods Trade Deficits
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/04/regulating-imports-with-a-reciprocal-tariff-to-rectify-trade-practices-that-contribute-to-large-and-persistent-annual-united-states-goods-trade-deficits
全ての国からのアメリカへの輸出に対して一律10%の相互関税がかかり、不均衡の度合いが高い国家に対しては追加関税がさらに課されるという内容で、日本に対しては24%の相互関税が課せられるとされた。
トランプ大統領 相互関税日本に24% 一律10%関税
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250403/k10014768241000.html
そして、2025年4月5日。
「全ての国からの輸入品に対して10%の相互関税」が発動。さらに2025年4月9日、「国家別(日本に関しては24%)の相互関税」が発動した。しかし、2025年4月9日の発動直後、トランプ政権は大きく方向転換する。
MODIFYING RECIPROCAL TARIFF RATES TO REFLECT TRADING PARTNER RETALIATION AND ALIGNMENT
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/04/modifying-reciprocal-tariff-rates-to-reflect-trading-partner-retaliation-and-alignment
トランプ大統領 相互関税90日間停止
https://www.huffpost.com/entry/donald-trump-pauses-tariffs_n_67f3ecfbe4b0afc2a9d7c2a7
2025年4月9日の追加の相互関税を発動した同日、トランプ政権は「国家別の相互関税」に対して90日間の猶予を発表した。※中国を除く。
その後もトランプ政権は、スマホ、PCや半導体について相互関税の対象から除外するとしたが、半導体に関しては関税率を発表すると公表するなど目まぐるしく情報は変わりつづけ、市場は混乱が続いている。
Trump says tariffs on imported semiconductor chips coming soon
https://www.nbcnews.com/politics/politics-news/tariffs-imported-semiconductor-chips-coming-soon-trump-says-rcna201081
混乱の最中に投下されたフェイクニュース
ジェットコースターのように激変するトランプ政権の関税政策に市場は右往左往した。
そんな中、1つのフェイクニュースがSNSを通じて投下された。
そのニュースは真偽不明のまま瞬く間に拡散し、市場をさらにかき乱すことになった。
事が起こったのは、2025年4月9日の「国家別相互関税」を発動する2日前である4月7日だった。
「90日間関税停止」のニュースが流れたのだ。
後にそれは現実化するのであるが、その時点では根拠のない噂でしかなかった。
だが、その朗報に市場は即座に反応し株価は急激に上昇した。
その後、ホワイトハウスがフェイクニュースであると否定すると、フェイクニュースに乗ってしまった大手の通信社は謝罪することとなった。
問題はこのニュースの出どころが、SNSでニュース記事を投稿している素性不明なアカウントということだった。
「ブルームバーグ」という大手通信社と似た「ウォルター・ブルームバーグ」という名前を使いSNS上で活動しているが、大手通信社とはなんの関係もないアカウントだった。
このアカウントの発信をきっかけに、市場の願望が後押しする形で拡散され、ニュースとして確定化していったようだ。
How actual ‘fake news’ caused a market whiplash
https://edition.cnn.com/2025/04/07/media/fake-news-x-post-caused-market-whiplash/index.html
Fake Social Media Posts Can Tank The Stock Market Now
https://www.huffpost.com/entry/social-media-tariffs-fake-news_n_67f4069de4b0af0ad3c8d7b0
このフェイクニュースの内容は奇しくも現実となった。
だが、2025年4月9日に実際に関税が発動した同日に、90日間の猶予を発表した経緯を踏まえると、記事が正しかったのではなく、結果として記事通りとなった可能性が高いだろう。
フェイクニュースが発生する理由とトランプ大統領との親和性
フェイクニュースが作られる理由には様々なものがある。
愉快犯、承認欲求、プロパガンダ、歪んだ認知――。
個人でも大きな発信力を持ち得るSNSという環境が整ったこともあるだろう。
中でも大きな問題は、フェイクニュースがビジネスになるということだ。
Websites that peddle disinformation make millions of dollars in ads, new study finds
https://edition.cnn.com/2019/08/18/tech/advertising-disinformation-money-reliable-sources/index.html
フェイクニュースはビジネスになる。そしてフェイクニュースとトランプ政権には親和性がある。もちろん結託しているということではない。
トランプ大統領は他の大統領ならば絶対にやらないだろうということを実行してきた。一見、耳目を引くだけの突飛とも思えるフェイクニュースであっても、トランプならばと一定の真実性を担保させることになり、市場は過敏に反応してしまうのだ。
現在の社会情勢は、意図的に市場を操作して利益をあげようとする者や、混乱を拡大させようとする者が干渉しやすい状況にあるとも言え、彼らがこの機会を逃さないこともまた確かだ。